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価値観発見
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20年前のこと、これからのこと。池袋新文芸坐_花俟良王さん

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 私は映画館に勤務するしがないサラリーマンである。しかし私は映画を編成して観てもらうことができる。オールナイト上映の編成に携わるようになって、若い客層の敏感で柔軟な価値観に触れるうちにそんなことを強く思うようになった。映画を通して色々なことを知ってほしい。様々な価値観に触れてほしい。そしてもっと映画を好きになってほしい。そんな気持ちから企画内容によっては「前説」をすることもある。これから始まる長丁場の敷居を下げ、スタッフ・キャストのキャリアを紹介し鑑賞の道しるべを掲げる。馴染みのない国の映画ならばどんな国かも紹介する。従業員の出しゃばりと不快に思う方もいるかもしれないが、客席からの知的好奇心の熱のようなものを感じることもある。

 最近手ごたえを感じたのはLGBTQ関連の企画だ。そんな括り方こそが差別的だと言われることもある。しかし同性愛や性的マイノリティが絡む恋愛となると(今の時点では)性別を取り巻く諸々に対する「葛藤」が描かれることになる。それは男女の恋愛映画では描かれないことだ。個人的な想いとしては、まだ世界は、少なくともこの国はその「葛藤」を描かなければいけない段階だと思う。もちろん同性愛を描いた映画は昔からある。しかし2005年の『ブロークバック・マウンテン』がアカデミー監督賞を始め多くの賞に輝いたことが嚆矢となり、メインストリームにてLGBTQ作品が作られるようになった。オールナイトの前説で私は何度かこんなことを言った。「もし今ここに、性について周囲の理解が得られず悩んでいる人がいるならば、もう少しの辛抱です。時代は確実に変わってきています」。そしてベトナム映画『ソン・ランの響き』を上映した。この作品は男性同士の恋を描いた作品だが、そこにセクシャリティをめぐる葛藤は描かれていない。あくまで人と人との崇高な感情の話として終始しているのだ。ようやくここまできたのだ。

梅原浩二

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