届けたいのは、繊細でやさしい時間
ーー今日はワンちゃんも一緒にありがとうございます! これがウワサのイヌパシーですね……!
▲デバイスの色と光り方で、「リラックス」「ドキドキ」「ハッピー」「興味」「ストレス」 といったメッセージをリアルタイムに教えてくれる。虹色は「ハッピー」。
そうです!背中に背負っているこのデバイスに、ワンちゃんの今の心の状態の移り変わりが色で表示されるようになっています。
ーーこのデバイスはどんな仕組みになっているのでしょうか?
肝となるテクノロジーが2つあって、1つがワンちゃんの心拍を毛の上からでも簡単に測ることができるセンサーですね。もう1つが、取った心拍のデータからリアルタイムに今の体の状態を解析するもの。この2つの技術が1つのデバイスに搭載されています。
実は、心拍の情報からワンちゃんの状態を可視化するデバイスは世界初なんです。人間は、水分を含んだ肌があるから電気や光で心拍を取りやすいけれど、ワンちゃんにはモフモフとした毛があるので、ノイズが入ってしまうことも多くて。この心拍のセンサーを開発するのには10年ほどかかりました。
ーー10年……! 犬の感情を知る上で、心拍に着目したのにはどんな背景が?
もともとこのセンサーは、今わたしが代表を務める株式会社LangulessのCTOである山口(山口譲二さん)が一人で作り始めたんですね。彼はずっと動物行動学を勉強していたので、動物に関する膨大な量のインプットをしていて。
それにも関わらず、結婚したときにお相手が飼っていたコーギーが全然懐いてくれなかったと。やっぱり知識だけではダメなんですよね。そこで、どうやったら仲良くなれるかを究極まで考えた結果、心拍に手がかりがあることがわかって、研究を始めたのがきっかけでした。
▲株式会社Langualess CTOの山口譲二さんと愛犬のコーギー
ーーなるほど。結婚相手のワンちゃんと仲良くなりたいというところから始まっているんですね。なんだか微笑ましいエピソード。
そうですね(笑)。彼は研究熱心な人なんです。このセンサーも現場で実際に手をたくさん動かして、試行錯誤を何度も繰り返していく中で完成しました。
商品として量産する最終段階では、紹介していただいた町工場の職人さんたちの力をお借りしたのですが、日本の職人さんはプライドを持って尽力してくださるので、商品の質を高めることができて本当にお世話になりました。
ーー「ワンちゃんの気持ちがわかる」と謳った商品は、一時期ブームのようにたくさん発売されていた印象で、少し懐疑的な気持ちもあったんです。いざ、イヌパシーを商品として発売してからはどうでしたか?
購入する前の皆さんの反応で言うと、はっきりと好きか嫌いに分かれるプロダクトかなと思っています。受け入れ難いと思う方は、ワンちゃんとのコミュニケーションに対して時間をかける大切さを感じていることが多いので、機械を通すことに抵抗があるのかなと思います。
人間でもウェアラブルデバイスを身に着けることに抵抗がある人はまだまだたくさんいますし、飼い主さんたちに良さを伝えられるように尽力していきたいところなんですけど。
ーーどちらの気持ちもわかる気がします。そこから実際に購入に至った方の反応はどうですか?
15年くらい連れ添ったワンちゃんと飼い主さんのエピソードがとても印象的でした。昔から厳しくしっかりとしつけをしてきたので、ワンちゃんはべったり懐くというよりは一定の距離が保たれていたらしいんです。でも、イヌパシーを使ううちに、飼い主さんの腕にアゴをチョンって乗せるようになったと。
ーーへええ。可愛い……。
これはやっぱり、飼い主さんが自分のことをちゃんと理解してくれているんだとわかったことで、ワンちゃんはそういう仕草をするようになったんじゃないかなと。
「昔はキツいしつけをしていたけれど、もう15歳というタイミングになったので、最後くらいたくさん甘やかしてあげたいと思います」とは言ってくださったのはすごくうれしかったですね。
ーーほっこりエピソードですね……。ちょっと泣きそう。
「目が合ったときに『ハッピー』が出たのを見て、かけがえのない体験でした」とメールで送ってくださった方もいました。本当に作って良かったなと思いますね。
実際イヌパシーで提供しているものって、繊細でやさしい時間なのかなと思っていて。今まで飼い主さんがやってきたことが実際にワンちゃんにとってはどうだったのか、自分で想像するのと客観的にこうだって言ってもらえるのとでは全然違いますよね。
ーー答え合わせみたいな感じですね。わたしも実家に14歳のコーギーがいるので、今までちゃんと喜ぶことをしてあげられていたかなと確かめたくなりました。
ありがとうございます! 今のイヌパシー自体はずっと装着し続けるプロダクトではないかもしれないけれど、一度「これがハッピーなんだ」「これでよかったんだな」というのが飼い主さんの中でわかれば、これからはそれをたくさんしてあげようと、次に繋がっていくと思いますし、ぜひ試してもらえたらと思います。