共感の役割とは?
動物の世界で考えてみると、共感は種を存続するためになくてはならない本能的なサバイバルスキルと言えます。
動物は、仲間を守るために、協力し合わなければなりません。オスが食べ物を狩り、メスが子どもの世話をします。単独では生き残れない動物は、群れを作ります。子どもが襲われそうになった時には強靭さを発揮し、体を張って守ろうとします。
ヒトはどのように共感能力を発展させてきたのでしょうか。
その子孫であるサピエンスは約1000年をかけてサピエンス同士で協力しやすい身体へと進化しました。男性ホルモンが減少して顔が柔和になり、攻撃的ではなくなり、脳が発達してお互いの思考や気持ちを正確に理解できるようになりました。
そうして、家族や友達、近隣の人たちと共感することで親切な行動がしたくなり、そうすることでお互いに好意が生まれます。理解し合い、助けあってコミュニティを築くことができました。共感する事は自分自身を幸せにすることにも繋がっているのです。
映画や小説の登場人物にまで思いを巡らせることもできる人類は、共感能力を使って感情を豊かにしてきました。
世の中が発展し、都市で暮らす人の単位が小さくなってきたことで、「隣近所の知人」が少なくなり、これまでのようなご近所のコミュニティを作る機会が減った結果、都会に暮らす人々は単独行動が増えました。そして今、コロナ禍で人と関わる機会が極端に制限される世の中になり、インターネット越しの活動が圧倒的に増えてきました。同じ場所で同じ体験をして共感能力を高めてきた今までの方法はなかなか取れなくなりましたが、また違った方法で存分に共感し合える環境も生まれています。
今までと大きく違うのは、自分と同じ嗜好や境遇の仲間とインターネットを通じて出会えるという事です。マイノリティであっても、距離を越えて仲間と出会い、コミュニティに入れるようになりました。マイノリティであった事で生きづらさを抱えていた人たちにとって、安心して話せる場所、体験を共有し合える仲間ができることは格別の事でしょう。
SNSの普及によって、世界で起こる紛争や貧困、飢餓の情報を簡単に知ることができるようになったため、実際に行かなくても地球の裏側にまで共感の対象が拡がり、寄付やボランティアを進んで行う人も増えています。
これまで共感力は進化の過程で培われてきたと述べましたが、意識的に共感能力を高めることはできるのでしょうか。
長年に渡る研究で、共感は固定された素質ではなく、むしろスキルに近いことがわかっています。
いきなり共感能力がグングン上がる魔法のような方法はありませんが、相手の気持ちを理解しようと意識していれば、筋肉のように少しずつ鍛えられていくものだそうです。
私たちは、感情を高揚させることや、状況によって共感するかどうかをコントロールしています。
反射的に共感している事もありますが、自分のために役立つかどうかによって共感するかしないかを判断していることもあります。
例えば、ラグビー選手が試合前に士気を奮い立たせるため、円陣を組み、闘志に満ちた言葉を自分たちに浴びせるパフォーマンスを意識的に行いますね。
また、楽しい気持ちには伝染性があります。そばにいる人が楽しそうにしていると自分も楽しい気持ちになる。その場の空気が楽しいものになることは自分にとっても相手にとっても良いことなので、共感する選択をしていると言えるでしょう。
反対に、人の悪口ばかり言う人の話を聞きたくないと思うのも、共感したくないという選択の現れですね。
人は他者に共感する時、幸せを感じるという研究結果が出ています。
他者に手を差し出すことは、差し出された相手だけでなく、差し出した本人にも恩恵があるというのです。また、他者の相談にのってあげることは、同じ立場に立ち、別の解釈を考えるという作業です。これは共感の力を磨くことにもなります。この作業は、自分が問題にぶつかった時、客観的な視点で解決する方法を考える訓練にもなるでしょう。
編集部のここが「#たしかに」
「共感」は自分も相手も幸せにできることがわかりましたが、人によっては共感し過ぎて疲れてしまう場合があるようです。
そんな時、あなたは相手の痛みを“自分のもの”として受け止めてしまっているかもしれません。共感のスキルとして、あくまでもその問題は“相手のもの”という事を意識してみてください。そうすれば、共感し過ぎる事なく相談に乗ってあげられるのではないでしょうか。
そして、相手との信頼関係をより深めることができれば良いですね。