自らの道を切り拓き、進み続けている憧れのあの人は、何を考え、挑戦を続けているのか。大切にしている価値観やそこに至ったエピソードから、自分らしく輝くためのヒントを探ります。
今回お話を伺ったのは、お笑い芸人で映画監督としても活躍する品川祐さん。
2007年に著書にもなった『品川ブログ』を始めとする品川さんの発信からは、周囲に対する鋭い観察眼が伺い知れると同時に、そういった日々の気づきをご自身の創作に生かしている印象を受けます。
そんな品川さんのイメージは、“ストイックな人”。
好きだと思えるものにはとことん情熱を捧げ、実直にものづくりに取り組む。その姿勢の原点とはいったい何なのか。お話を伺っていきます。
品川さんのインタビューは、前編と後編に分けてお届けします。
品川祐さんプロフィール
1972年4月26日生まれ、東京都出身。95年に相方・庄司智春と結成したお笑いコンビ【品川庄司】のボケ担当。
お笑い芸人として第一線で活躍する一方で、09年には自身の自伝的小説を原作とした『ドロップ』で長編映画監督デビュー。11年には原作・監督・脚本作品第2弾として『漫才ギャング』その他「サンブンノイチ「Zアイランド」「異世界居酒屋『のぶ』」「半径1メートルの君~上を向いて歩こう~ 『戦湯~SENTO~』」など。21年には、舞台「池袋ウエストゲートパーク」の演出を手がけるなど、エンタメ業界での活動の場を広げ続けている。
編集の入らない言葉を残すことが面白かった
たしかに編集部:品川さんはSNSがまだあまり普及していない頃に『品川ブログ』をはじめ、日々のさまざまな気づきを積極的に発信されてきたと思うのですが、そういったことを始めた理由をお聞かせいただけますか?
そうですね、僕がブログを始めた2006年当時は、まだ芸人がSNSを始めるとかもあまりなくて。自分で出版物を出したり、映画やドラマをつくったりしたときに、宣伝できる媒体がなかったので、ブログを始めたという感じだったと思います。
なるほど。当時の反響としてはどうだったのでしょうか?
なんとなくSNSやブログというものに対してまだ懐疑的だったというか。「芸人がブログなんて」みたいな空気もありましたし、否定的な人もいたと思います。今のYouTubeと一緒じゃないですかね。
でもそれとは別に、藤本さん(藤本敏史/FUJIWARA)とか小杉さん(小杉竜一/ブラックマヨネーズ)みたいに、この品川のブログの影響力を面白がって「(ブログに)出してや」って言ってくれる人もいっぱいいたし。街で「ブログ読んでます」と声を掛けられることもありました。
まさに今のYouTubeの流れに似ていますね。ブログにはそういった周囲の芸人さんもたくさん登場しますが、品川さん自身がこのブログを続けるモチベーションはどこにあったんでしょうか。
テレビ番組は、スタッフさんが編集して作ってくれているじゃないですか。単純にスベってるところは削って、ウケたところは残してくれる。でも逆にウケたのに編集で削られる場合もあるし、こんなに面白くて実力があるのに全然写らない人もいたりして。
ふむふむ。
僕が面白いと思っている人がテレビに全然出てこないところに悔しさもありましたし、自分自身も言いたいことがたくさんあったんですよね。その点、ブログは誤字脱字や言い間違いがあっても、誰のチェックも受けずに自分が思っていることをダイレクトに出して残せるから、当時書き続けていたんだと思います。今はそれをTwitterで発信するのが当たり前になりましたけど。
編集の入らない、自分自身の生の言葉を残すために書いていたんですね。ブログを書くにあたって意識していたこととかあるんですか?
ブログでは日々の楽しいことだけしか書きませんねいいやつに思われたいとかではなくて、本当に好きな人、好きなことしか書かない。なぜなら家に帰ってわざわざ嫌いなことやムカつくことを思い出して書くのが無駄だと思うし、毒で注目を集めるのって割と簡単だから。
たとえばですよ。僕が相方の庄司が本当に嫌いだとブログで書いたら、注目を集めやすいじゃないですか。でもそうじゃなくて、エンタメとしてもわりと難しい「褒めて笑いを取る」ってことに挑戦したいという思いもありました。
たしかに。ブログはいわゆるテレビで見ていた「好感度低い芸人」というイメージとはまた違う品川さんを垣間見ている気持ちになります。
だからって僕がいいやつなわけじゃないんですよ。喜怒哀楽とか好き嫌いが激しいし、すぐに顔に出ちゃっていたから嫌っている人も多くいたと思います。でも、嫌われたくないとはあまり思わなかったですね。好かれたいという気持ちがなかったわけではないけれど。
それはなぜ?
芸人になりたての頃は、勝負だと思っていたのが大きいと思います。あと、関係のない外野から善悪とか正義とかはっきりさせようとする人たちには何か言われる筋合いはないと思ってたので。以前ブログでも書いたんですけど、誕生日プレゼントって自己満足だと思うんですね。
誕生日プレゼントを贈ることがですか?
そうです。もらった人は得するし、贈った方は気持ちが良い。だからトントンだと思うんです、立場的に。
ブログに誰かに誕生日プレゼントを贈ったことを書くと、「偽善っぽい」とか「そんなのは裏でやればいいじゃん」って言ってくる人もいるんだけど、そもそも贈っている時点で自己満足のための行為なので僕は「そうです、自己満足ですよ」と。
たしかに、そうですね。
そんなことを言うなら、人との付き合いをやめて何もあげない、もらわないで生きてみなよって。そうなれば怒りもしないし怒られもしないだろうけど、きっとできないから。
人間って、気持ちよくなりたいし好かれたいし、優しいって言われたくて生きているわけで。でもその行動で助かる人がいるならいいじゃないですか
イーブンな関係だから、してもらった側も負い目感じる必要ないし、してあげた側もそこに関わっていない人に自己満足だとか偽善だと言われる筋合いないんですよね。
おっしゃる通りだと思います。が、そう思っていても、外野の声を気にせずにいるのはなかなか難しいなあと……。ストレスもかかると思うのですが、品川さんがそうやって割り切れるのはなぜなんでしょう。
うーん……。でもそういうことがないとつまらないと思ってるから。映画の脚本とかお笑いのネタとかブログを書くときもそうなんですけれど、優しい気持ちがある一方で、嫉妬とか醜い気持ちや嫌な気持ちがあるから、面白いものをつくれる。
だから好きな仕事であるほどストレスって多いはずなんです。理想が高いからこそ、想像と違うことが起きるし、ストレスがかかるから面白い。だとしたら、僕の人生ってわりと面白い人生だなと思うんです。ストレスが多いから(笑)。
すごく前向きな解釈。そういう考え方が染みついているんですね。
そうですね。割とお笑いの道に入った23歳の頃から考えていることは変わらないというか。年をとってさらに腹も立たなくなってきましたね。