化粧品の先にある、幸せな人生の可能性
ポーラ幸せ研究所が設立されたのは、どのような経緯があったのでしょうか?
ポーラは「美と健康を願う人々及び社会の永続的幸福を実現する」を企業理念に掲げています。これまでも商材やサービスを通じ、お客さまの幸せの実現を目指してきました。その延長として、従業員やビジネスパートナー、地域社会など、より幅広いステークホルダーの“幸せ”を、もっと愚直に追求してみたい。そんな思いからスタートしたのが、ポーラ幸せ研究所です。
化粧品メーカーでありながら、化粧品サービス以外の可能性も追求するということですね。
きっかけは、社会がコロナ禍に覆われたことでした。世の中全体に不穏な空気が流れる中、笑顔で懸命にショップを運営する販売員の皆さんがいて、喜んでくださるお客さまがいた。私たちはその姿を見て、「当社が提供できる価値は幸せそのものなのかもしれない」と感じたんです。では、そもそも幸せとは何か? 科学的なアプローチによって、もう一度問い直そうと考えました。
研究所では、具体的にどのような活動をされているのでしょうか。
シニアと幸せや、アートと幸せなど、さまざまな研究をしています。大きく分けると、「従業員の幸せ」「ビジネスパートナーである全国の販売員さんと幸せ」「美容と幸せ」の3領域で研究を行い、得られたデータを発信したり、社内の別部門で実践したりしています。所長は当社代表取締役社長の及川が務め、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授、前野マドカ研究員の協力を得ることで、学術的な活動を進めています。
活動を通じて、どのような研究成果が出たのかを教えてください。
例えば販売店において、スタッフさんの幸福度と、売上や顧客満足度などの相関関係を統計的に分析したのですが、互いの個性を認め合いながら切磋琢磨しているチームは、新規顧客のリピート率が圧倒的に高いことがわかりました。一見すると当たり前の結果ですが、ポーラの店舗でお客さまと接する美容部員・販売員であるビューティーディレクターは、基本的に個人事業主。担当以外のお客さまをケアしても収入に直結しない仕組みなので、一見自分の仕事に専念した方が効率的だと思われるでしょう。しかし実際は、スタッフ同士が協力してチームプレーを重視する店舗の方が、結果として顧客満足度や売上を高めているのです。これは、笑顔や雰囲気の重要性を示唆するデータといえるでしょう。こうした研究結果をまとめた書籍『幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条』(日経BP)を上梓したので、ぜひご覧ください。
最終的にポーラ幸せ研究所は、どこをゴールにしているのでしょうか。得られた知見はマーケティングなどにも役立てられそうですね。
いえ、研究成果を事業活動に生かすことは想定していません。純粋に美や幸せを追求し、得られた知見を皆さまに共有したいという一心で、私たちは活動を行なっています。そのため研究活動に終わりはありませんし、長期的に何をするかは未知数です。私個人としては、企業にいながらソーシャルグッドな活動ができることは、大きなモチベーションになっていますね。