同意ではなく相手に「寄り添う」、共感という選択肢
共感とは、相手の気持ちに寄り添い、相手が物事をどのように捉えているのかを共に感じることです。相手と全く同じ気持ちになったり、同じ意見を持つというものではありません。同意と共感は、しばしば混同されてしまうことがありますが違うものです。相手の話を聞いた時に、何に焦点を当てて受け止めるかという点が異なります。
先ほどの例だと、「Aさんは嫌な人だ」という相手の話に対して「嫌な人なんだね」という返事をするのは同意です。同意は、話の内容に焦点を当てています。「Aさんが嫌な人である」というのは、相手の主観や判断です。
主観や判断は人それぞれ異なるものです。自分の考えと異なる場合に同意の返事をするのは、ただ相手の話に合わせているだけの状態で、相手を尊重している行為とは言えないでしょう。自分の本心に背いた会話では有意義なコミュニケーションにはならず、相手と良好な人間関係は築けそうにありません。
これに対して、共感は、話の内容ではなく、相手に起こった事実に焦点を当てます。「Aさんは嫌な人だ」という言葉に加えて、相手の表情や声色などから、「相手は何か嫌な思いをした」のであろうという事実を推測し、「嫌な思いをしたんだね」と返すのが共感です。相手の感情や事実そのものではなく、相手が事実をどう受け止めているのか共に感じ、フィードバックするのが共感した返答なのです。
共感は話の内容に賛成・反対の判断は下しません。つまり「Aさんが嫌な人であるか否か」ということは論じません。そのため、相手の主観や判断に賛同できない場合でも、共感が可能です。相手の話に「合わせる」のではなく、相手の事実の受け止め方を尊重して「寄り添う」という姿勢なのです。
共感するには、相手の様子から事実を推測する想像力や、相手の気持ちに飲み込まれない客観性が必要となります。そのため共感を意識してコミュニケーションを取ろうとすると、はじめは難しく感じるかもしれません。相手の話に合わせて同意してしまうほうが簡単に思えることもあるでしょう。
しかし、共感の姿勢でいれば、自分の気持ちに嘘を付くことも無く、相手と衝突してしまうこともありません。共感ができるようになれば、無理なく続けられるコミュニケーションがとれるようになるはずです。