人や自然との調和。当たり前の基準に疑問を持つ。
——“ちょっと不自由なホテル”って面白いなあと興味を持ちました。どういうことなんでしょう?
ありがとうございます。私は4姉妹の3番目なんですが、いちばん上の姉が心の病気に、末の妹は私が20歳の時に白血病を患ったんです。それまでの私は、多分みなさんにも覚えがあるかもしれませんが、電車で知的障害の方を見かけても見て見ぬふりだったんです。でも家族をきっかけに障害や病気が身近になり、この世界にはいろんな人がいると意識するようになりました。人だけじゃなく、自然ももちろんこの世界の一部。「世界は調和から成り立っていると感じられる場をつくりたい」それがこのホテルの出発点なんです。
——調和を意識する。たしかに、今は特に行動範囲や視野も狭くなり、外の世界や他者への意識は自分も低くなっている気がします。
それに、都会にいると、社会活動をしている人間が世界を作っていると思いがちですよね?効率的で簡単であることが最良で、それが社会の進化だと。私も都会で暮らしていた時そう考えていましたが、果たして本当にそうなのか?と。
ここは奈良の山奥で、来る途中はスマホの電波も途切れちゃうし、長い坂道も登らなくちゃいけない。便利とは対極だけれども、その代わりに自然が溢れ、虫、鳥、風、澄んだ空気など都会にはないものがあるんですね。住んでいるのもお年寄りばかりで、時の流れもゆったり。そんな場所で都会から一旦距離を置いて、都会の暮らしが当たり前、正解ではないのかもと立ち止まってもらえたら、と。
——なるほどー。都会暮らしで固まった価値観が「当たり前じゃないかも」と振り返るってことなんですね
ここは、景観が素晴らしいんです。村のいちばん高い丘の上にあって、里山を一望できて、冬にはタイミングが良ければ雲海も見られるんですよ。ぜひ見て欲しいです。3つある客室はどれも部屋からの景観を大切に、かなり大きな窓にしてあるんです。ベッドでゴロゴロしながら、自然を身近に感じてもらえたら。朝は小鳥のさえずりが時計がわり。目覚めの爽やかさがぜんぜん違いますよ。
——大きな窓いいですね!映画のような田舎の景色が浮かんできて、気持ちいいんだろうなぁと想像できました。
誤解してほしくないのは、「豊かさはこうだ」と一概には言えないし、自分の価値観を押し付けたくはないんです。この場所でフラットな気持ちになって、いろんなことを感じていただきたい、ただそれだけなんです。人によって切り取れるもの、受け取れるものが違うのがここの魅力。敢えては言いませんが、それでもお客様から帰り際に「この場所ならではの豊かさ」を感じたとお声をいただくことも多くて、「でしょでしょ」って嬉しくなります。