珍しい樹を探してタイトルを付ける!? 散歩を楽しむための、ユニークなプロの視点。
ーー『散歩の達人』6月号の特集は「ご近所さんぽを楽しむ15の方法」でした。当時とてもタイムリーな企画だったと思うのですが、どのように生まれたのでしょうか。
6月号の企画を作り始めたのがちょうど、緊急事態宣言が出るかもと言われていた3月末だったんです。本当は、とあるエリアの特集をすることに決まっていたのですが、お店や施設などに取材ができる保証がなく、『散歩の達人』の読者さんが家の近くでどこでもできる企画をやろうと、この特集内容に変更しました。
いままで何回か、こういう企画があってもいいよね、と編集部で話はあがってはいました。でも、さすがに売れないだろうとずっとお蔵入りだったんです(笑)。
▲交通新聞社の会議室で取材を受けてくださった土屋さん。
ーー誰でもどこでも、ご近所で、という切り口は初めてなんですね!
初めてです! 普段使っている道って、お店くらいしか気に留めないじゃないですか。ただ、こういう業態のお店が多いなとか、お店のたたずまいや看板の文字、のれんの状態などに注目するだけで、いつもとは違う感想を抱いたり、新しい発見があったりします。たとえば僕は鶏肉専門店とおでんダネの専門店がある商店街はとっても「いい商店街」だと思っているんですが、それは色んな商店街を見てきた結果、自分の中で判明した傾向です。
それに、野草研究家やバードウオッチャーなどの「その道のプロ」と歩くと、いつもの道でも途端にたくさんの発見があるんです。なので、そういう人たちに教えてもらいながら、ご近所でもこんなに楽しめる方法があるという提案を6月号の『散歩の達人』ではしてみました。プロの視点を知っているだけで、散歩の中で目に入るものはぜんぜん違うと思います。
ーーたしかに。昔は川や水辺だった場所を探しながら歩く「暗渠さんぽ」や、散歩をしながら短歌を詠むなど、15の方法の中で特集されていた街歩きにまつわる様々な工夫は、もともと『散歩の達人』編集部に蓄積されていた視点なのですか?
15の方法で掲載されているプロたちは、いままで僕らが誌面を作る中で知り合った方々なので、編集部で積み上げてきた散歩を楽しむための知識と言えると思います。散歩のなかで、こういうところ見るよね、こういうことするよね、と案を出してからそれぞれのプロに依頼していきました。特に「珍樹ハント」は、ご近所さんぽの特集だからこそできました。
ーー珍樹! 変わった形だったり、動物や著名人など何か他のものに見える珍しい樹を見つけていくものですね。
はい。珍樹ハンターの小山直彦さんは、実はずいぶん前に編集部に売り込みに来てくれていた方で。とっても面白い視点だなと思っていたんですが、なかなか紹介する機会がなかったんです。
それで、ご近所さんぽの企画を考えているときに、これこそ小山さんの珍樹ハントがぴったりでは、と思ってお声がけしました。そうして、実際に珍樹を探して歩いてみると、これがなかなか面白いんですよ。はりきって山や森などの樹が多い場所で探すより、普通に公園や街路樹のある大通りのほうが見つけやすかったりして、その奥深さに夢中になりました。
珍樹の楽しみ方で忘れてはいけないのが、タイトルをつけることなんです。タイトルを付けるだけで、散歩の楽しみが何倍にも膨れ上がりますし、他の人にも伝えることができます。
ーータイトル付けがすごく楽しそうですよね。すごいものだと、樹の枝が文字に見えるからと、「ん」「て」みたいなタイトルがついていて……。
その場で思いつかなかったら、写真を撮り、家に帰ってお酒でも飲みながらゆっくり考えるのも楽しいです。いいのが思いついたら、インスタなどのSNSで「こんなの見つけた!」と発信して、見せあって盛り上がることも可能です。そんな感じでどんどん楽しみながらやってほしいですね。
▲後日、ライターが散歩中に見つけた珍樹。タイトル「ショウリョウバッタの顔」
ーーSNSに発信することで、より楽しく散歩ができるわけですね。
文字の消えてしまった看板である「無言板」や、商店街でおかずをテイクアウトして、お弁当箱に詰めて作る「My商店街ランチボックス」なんかも、同じ楽しみ方ができると思います。