みんなが自分らしく暮らせるように。チャレンジを応援したい。
――お店のリスのロゴ、かわいいですね!
聡子さん:店名のチグリスにかけて、友達のアーティストにつくってもらったんです。お店で使っているカップもオリジナルで、お客様にも好評です。
――ところでカフェを始めたのは、どちらの希望だったんでしょう?
朝彦さん:僕です。もともとは、カフェをやろうと思っていたわけではなく「人が集まれる場所」をつくりたかったんです。コーヒーがあったら立ち寄りやすいなぁとは思っていましたが。喜茂別町には地域おこし協力隊として来たのですが、活動を通じ地域の方々と話す中で「夜お酒を飲む場所はあるけど喫茶店がない」、という声を多くの方からうかがいました。「ふらっと立ち寄れる場所が欲しい」そういう思いを解決したいと思ったんです。
――地域の方々の思いを、形にしたんですね。
朝彦さん:東京では会社員をしていましたが、仕事が行き詰まったときよく近くのカフェを利用していたんです。それを近所のカフェではなく北海道のカフェでというニーズも、もしかしたらあるかもしれないと考えました。tigrisには電源が取れるテーブルもあり、デスクワークができるようにしてあるんです。
――いわゆるワーケーションですね!
聡子さん:オープンしたての頃はそういった言葉は浸透してなかったですが、wi-fiも飛ばしているので、お仕事をされている方もいらっしゃいますね。
――カフェのコンセプトは「新しいなにかが生まれる場所」ですよね?そのためになにか特別なことはしているんですか?
朝彦さん:店内にはフリースペースとキッチンを併設しています。「飲食店をしたいと思っているけど、まだ自分のお店を持つ自信はない」という方にお試しで使ってもらったり、イベントをやってみたいという方のチャレンジを応援したり。
――これまでに、どんな方をサポートされたんでしょう?
朝彦さん:僕の後任として地域おこし協力隊になった方が飲食店の開業を目指していたのですが、その方にランチ営業の場としてお店を提供しました。場所の提供だけでなく、集客や運営のお手伝いもしました。
▲併設のキッチンを使ってもらい、お試しでランチ営業の機会を提供している
――夢の実現に向けて、勇気をもらえそうです。他にはどんな方のサポートを?
聡子さん:お菓子づくりが上手で「いつかは自分のお店を」と考えているママ友がいるのですが、その方にお店で提供するスイーツをつくってもらっています。すごく評判が良くて、すぐ売り切れちゃうんです。自信がついたみたいで、今では他のお店にもお菓子を卸しているようです。
――たしかに、そういう経験ができると自信にもつながりますね。
朝彦さん:あとは、小樽から不定期で整体師さんが来ています。近所のお年寄りにカイロプラクティックの施術をしてもらっているのですが、それをきっかけにお店に来てくれるお年寄りが増えました。
――カフェというと若者が集まるイメージですが、整体だったらお年寄りも来れそうですね。
聡子さん:お店の存在を知ってもらえたことで、普段も気軽に立ち寄ってもらえるようになりました。今ではお茶というより、夫とのおしゃべりを目当てに遊びに来てくれる近所の方もいるほど(笑)。
――やりとりが見えるようで、和みます(笑)。
朝彦さん:僕らとしては、カフェをやりたいという方がもしいたら、このお店を丸ごと任せてもいいと思っているんです。
――いちから思いを込めて作ったカフェをですか?それほどまでに人のチャレンジを応援する理由はなんでしょうか?
朝彦さん:僕らもtigrisをオープンするにあたって、多くの方からサポートしていただきました。今度は僕らが、お返しをしたいのです。あとはチャレンジしたい人や、自分らしく暮らす選択肢をこの町に増やしたい。そういう生き方をより多くの人が選択できたらいいなぁと思っています。
――なるほど。町や人、社会の問題をビジネスで解決する、いわゆるソーシャルビジネスってことでしょうか。町を元気にしたい、という思いにもつながるんですね。
聡子さん:地域の人たちのことも応援しています。お店で提供するものはなるべく地元のものをと、スイーツに使う材料は町の農家さんで採れたものを使うこともあります。
――それはいいアイデアですね!
聡子さん:この辺は畑が多いんです。近所の農園で採れたブルーベリーを使ったチーズケーキやかぼちゃのケーキ、にんじんジュースなどをお店のメニューに取り入れています。近くにタカラさんという牧場があって、そちらの牛乳をカフェオレに使わせてもらっています。
▲地元の山田農園さんで採れたブルーベリーを使って。カフェで提供するものはできるだけ、喜茂別産にこだわっているそう
――カフェが地域経済の起点にもなっているんですね。
朝彦さん:地元の農家の方と、フードロス対策の団体を作ったんです。見た目が悪いと出荷できず無駄になってしまう野菜って意外と多くて。訳あり野菜を使った商品開発に取り組んでいます。これまで切り干し大根などの乾燥野菜を商品化しました。他にもイベントなどでの販売を目的にコロッケも開発していたのですが、イベント自体が減って今は残念ながらストップしています。
――早くかつての日常が戻ってほしいですよね。
朝彦さん:また春から動くつもりです。この辺は冬が厳しいので、商品開発できる期間も限られてしまうんです。春から夏が勝負です。
――たしかに。北海道の冬は農家には厳しそうです。カフェに関して今後のプランなどはありますか?
朝彦さん:シェアスペースの有効活用を考えています。面白い企画を練って、場の活性化を図っていきたいなと。これまでは、「お店を持ちたい」「飲食店をやりたい」といった目的のある方のサポートが多かったのですが、もっと幅広く困りごとや悩みに応えていける場所にしたいと考えています。「ここに来たら何かできるかもしれない」といった期待感を町の人に感じてもらえたら。
――地域のコンサルタント的役割を担うイメージでしょうか?
朝彦さん:2020年10月に妻と二人で会社を立ち上げました。まだそんなに大きなことはできていないのですが、対外的な発信を強めて、もっと僕らのできることを伝えていき、地域を元気にしたいです。喜茂別町はちょうど、札幌からニセコまでの通り道の真ん中にあるんです。これまで素通りしていた観光客にも足を止めてもらえるような、活気ある町をめざして。tigrisがその起点になれたら嬉しいです。
――ところで、加藤さん夫妻が喜茂別町へ移住した理由とは?夫婦で意見のすれ違いはなかったんでしょうか?リノベーションの話もまだまだ知りたいことだらけ!後編へ続きます!
編集部のここが「#たしかに」
カフェという場を通じ地域に根ざしながら、町や町に住む人の課題解決に取り組む加藤夫妻。『たしかに、カフェで気軽に悩み相談ができるのは、とても良いアイデアですよね。気軽に立ち寄ってもらうことで、何気ない会話から町の課題を見つけることもできそうです。地域に溶け込み、巻き込みながら活動を続ける加藤夫妻から、ソーシャルビジネスの魅力を知ることができました。ありがとうございました!
COFFEE & SHARESPACE tigris
コーヒーアンドシェアスペース チグリス
住所:北海道虻田郡喜茂別町喜茂別76
営業時間:11:00〜17:00(月・木定休 ほか臨時休業あり ※現在ランチメニューの提供は行っていません)
電話番号:0136-55-5671
アクセス:札幌・新千歳空港より車で90分
後編はこちら:子育て、仕事etc.家族で移住ってむずかしい?カフェ『tigris』オーナー夫妻の理想の暮らしの探り方
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取材・執筆:松村聡子 編集:#たしかに編集部