出張美容室で見つけたローカルの可能性
ーー逗子は移住者も多い人気のエリアですよね。次の拠点に選んだ理由は?
実は深い理由はなくて、ただなんとなく落ち着いた雰囲気がいいなと思ったから(笑)。
ーーそうなんですね(笑)。逗子ではどんな風に働いていたんですか?
まずは逗子の美容室に入りました。そこは、僕が希望していたように一人のお客様に対して全部一人で担当するようなお店でしたね。あとは、同じ神奈川県の真鶴町で出張美容室を始めたんです。
ーー出張美容室……?
都内を離れるタイミングで、知り合いのフォトグラファーに真鶴町を紹介してもらって。三崎と同じく東京からの移住者が多い小さな港町なんですが、そこで出版社をやっている夫婦に「若い人が髪を切る場所がない」と相談を受けたんです。
そこで逗子の美容室と掛け持ちしながら、真鶴町でも月に1回出張して髪を切ることにしました。はじめは数名のつもりがいつの間にか広がっちゃって、今は50人くらいお客様がいるんですけど(笑)。
ーーすごいですね(笑)! どこでどうやって出張美容室をやっているんですか?
もともと町にあった美容室を間借りさせてもらっています。はじめに真鶴出版の二人に協力してもらって、貸してもらえるお店を探しました。なかなか見つからなかったんですけど、最後に伺ったお店の80代のおばあちゃんが「いいわよ、使って」って言ってくれて。
月に1回、そのおばあちゃんと並んで朝から晩まで地元のお客様の髪を切っています。それがすごく楽しくて、ローカルの良さを知るきっかけにもなりました。
ーー菅沼さんが感じた「ローカルの良さ」というのはどんなところだったのでしょうか?
よく言われるけれど、やっぱり人のあたたかさかな。東京が冷たいわけではないんだけど、ローカルは人と人との距離が近いから、あたたかさを感じやすいんだと思います。
真鶴町での出張美容室を通して、地元の人と触れ合って受け入れてもらえた経験は大きかったですね。だからこそ、ミネくんに「一緒に美容室を作らないか」と声を掛けてもらった時に「他の町でもできるかもしれない」と思えたんです。
ーーなるほど。三崎の町で美容室をやることになった時は、率直にどう思いましたか?
ミネくんに案内してもらっていい町ということは知っていました。初めてこの町に訪れた時、時間が止まったようなゆったりとした気持ちになって。
でも、正直はじめのうちはここで美容室をやっていくビジョンはあまり見えなかったですね。普段は人通りもかなり落ち着いている町なので、平日に来てくれる人いるのかなって(笑)。
ーーたしかに、平日はかなりゆったりしていますよね(笑)。
そうそう(笑)。だから不安もありました。でも、こういうのってやっぱりタイミングが大事ですよね。編集者であるミネくんと一緒に仕事したら、いい化学反応が起きてきっと面白くなるという確信を持てたので、フリーランスの美容師になって「花暮美容室」をやっていく決断をしました。