好きを仕事にするためには、腹黒さが必要
ーー好きなことを仕事にするためには、どんなことが必要だと思いますか?
「好きを仕事に」みたいな邪気がなさそうな考え方ほど、逆説的に戦略が必要なんじゃないかと思っています。たとえば僕の友達に、「ごはん同盟」と名乗るユニットがいて。ご飯のおいしい炊き方や食べ方をご飯好きの人へ向けて提案しているんですが、彼らはすごく筋がいいと思います。なぜかというと、「ごはん」には確立された文化と大きな市場があるから。ご飯のことをひたすら突きつめていったら、いつか、どこかの家電メーカーから、一緒に炊飯器開発しましょうとか、すごく大きい案件がくる可能性もありますよね。
自分の好きなものに対して、社会的なキャパシティがどれくらいあるのか。それを見極めるのが、最初の戦略だと思っています。まずは、業界地図なんかにざっと目を通してみるといいですよ。市場規模がわかるので。
ーー小倉さんも最初にそれを調べたんですか?
もちろん! 発酵食品の市場は数兆円。環境技術や医療領域を含めると、10兆円以上の規模になります。つまり、もともとのパイ(ある市場の全体・総額のこと)がとても大きい。そして、発酵・微生物の研究者はたくさんいても、発酵をテーマにしたクリエイターはほとんどいません。これを聞くだけでも、「発酵デザイナーって未来があるかも」と思えませんか。
——たしかに、仕事にできそうだなと思いました。
好きなことを仕事にして上手くいくかどうかは、「自分がどういうパフォーマンスをするか」「どういう心がけでやるか」より前に、市場の大きさに依存すると思っています。
市場が小さくライバルもたくさんいるところで、それでも何とかして成立させようとすると高いパフォーマンスが必要になる。逆に、大きい市場なのに全然競合がいなかったら、アウトプットがザルでも商売になる。
——なるほど、そうして比べて想像するとわかりやすいです。
みんな仕事をするとき、どう上手いことやるか、自分のパフォーマンスをどう高めるか、セルフブランディングを……って考えがちだと思うんですが、そもそも、その土地は肥沃ですか?ってところが大事なんです。自分の好きなことと市場がフィットする場所を見つけたら、始めた頃のアウトプットが未熟でも、それなりに仕事になっていきます。そういう着眼点というか、もともとある世界の広さを適切に測ることができるかがすごく重要だと思います。