昆虫食を通して、人生で初めて他人と好きなことを共有できた
篠原さんは幼少期から自然の中でよく遊んでいたそうですね。「虫を食べてみよう」と思ったきっかけは何だったのでしょう?
僕は高尾山近くの自然が多い地区で育ったので、昔から山や川が遊び場でした。物心ついた頃から生き物を観察したり、捕獲したりするのが好きで、採ってきたバッタやクワガタを家でペットとして飼っていたんです(笑)。
子どもの時って何でも口に入れるじゃないですか。その延長線である日、バッタを口に入れてみたんですよ。味は覚えていないんですけど「虫って食べるとこんな感じなんだ!」って発見があって、ただ楽しかった。それが初めての昆虫食体験でしたね。
当時から虫を食べていることを周囲の人に話していたのでしょうか?
それが話せなくて。幼稚園の頃は「昆虫博士」というニックネームで呼ばれているくらい虫好きだと認知されていたんですけど、小学生の時に学校の引き出しに色んな生き物を入れていると、先生から「嫌がる子もいるからやめなさい」と怒られてしまって。
他にも、テレビの罰ゲームで虫を使われている様子を見て、「虫って世の中で嫌われているんだ……」と思うようになりました。それで「虫好き」を知られてしまうと、それが原因でいじめられてしまうと思い、怖くて言えませんでした。
そんな気持ちがあった中で、どうして昆虫食をカミングアウトしようと思ったのですか?
転機が訪れたのは大学1年生の時、2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が世界の食糧不安について報告書を発表したタイミングでした。昆虫食に注目が集まり、その必要性も認知されてきた時に「今言うしかない!」と思って、3日くらい悩んだ結果、Facebookで「こんな虫を食べました」って投稿してみたんです。
思い切って言ってみたんですね! その時の周りの反応はどうでしたか?
「気持ち悪いからやめてほしい」や「虫なんてゲテモノ、美味しいわけないじゃん」など誹謗中傷を受けることもありました。「こんな反応なら言わなきゃよかった……」と思った反面、ずっと自分が隠していたことを誰かに話せて、何かが解き放された感じがしたんですよね。
そんな中で「世の中に昆虫食の魅力を伝えていきたい!」と徐々に思えるようになっていったんです。
他人に否定されたとしても、自分の好きなものの魅力を伝えていきたいと思ったんですね。
はい。昆虫食について色々と言われる中で、一部の人が「一度食べてみたいです」といったメッセージをくれて。最初は疑心暗鬼だったものの、その方達と一緒に山に行き、そこで捕まえたバッタなど様々な生き物を調理して食べてもらうと、「美味しい!」と喜んでくれたんです。
僕は中高生の頃、野球部に入っていて、それなりに人と同じことを楽しんでいたんですけど、心から自分の好きなことを楽しむ感覚ではなくて……。そんな経験もあって、昆虫食を喜んでもらえた時はとても幸せて、「これが現実なのかな?」ってフワフワした感覚がありました。その時「人生で初めて他人と好きなことを共有できた!」と思いましたね。