冷酒はたった100年。燗酒とともにある日本酒の歴史
――燗酒の魅力ってどんな点でしょうか?
日本酒と聞くと冷酒を思い浮かべる方が多いと思いますが、冷酒はここ100年くらいの文化なんです。それまではお燗で飲むのが当たり前。料亭などにはお燗番が必ずいたんです。ワインでいうソムリエみたいな役割で、料理や常連さんの好みに合わせて提供するお燗の専門家です。
――お燗番っていう仕事があるんですね。初めて知りました。
でも戦争を境に日本酒の文化が失われてしまったんですね。日本酒ってお米から作るでしょう。戦時中はお米が不足して良いお酒が作れなくなってしまった。三倍増醸清酒というアルコールを添加した日本酒もどきが生まれ、戦後もしばらくはそれが主流だったんです。
――日本酒のイメージがあまり良くなかったのは、もしかしてそのせいですか?
僕らの年代だと、若い頃安い居酒屋で、訳も分からず飲む日本酒がこれだったかもしれませんね。悪酔いして、次の日頭が痛くなるとか。そのイメージを変えたいんですよね。良質な日本酒は温めることでさらに魅力が増すものなんです。
――温めるほうが美味しくなるなんて目からウロコです。
燗酒って日本の伝統工芸に似ていると思っていて。寿司職人にも近いかなぁ。お燗番を育てたいと思い独自のレシピを作っていますが、これを参考にしても同じ味にならないんですよね、絶対に。寿司も握る人によって食感など変わりますよね。教えても伝わりきらないものがあるというか。
――なるほど。燗酒のレシピってどんなものなんでしょうか?
日本酒には純米酒、吟醸酒、本醸造酒…他にもいろいろな種類があるのですが、種類や銘柄によって適温や、温める道具が変わります。お酒を温める容器を「ちろり」といいますが、熱伝導率が異なる錫、銅、あとガラス製があって、それを使い分けます。あとはもちろん、ちろりを付けるお湯の温度も考えます。60度で火入れをするか、それとも90度にするのか。弱火か強火かという具合です。燗酒も料理と一緒と考えてもらえたら、わかりやすいかもしれません。
――それは面白いですね!確かに料理も道具が色々ありますし、料理人によって方法はさまざまですね。
そうなんです。ただひとつ料理と違う点は、日本酒は透明な液体だから目に見えなくて難しいんです。
――たしかに!どうやって判断するんですか?
温度は一応温度計を使いますが、まずは香りですね。あとは感性とか経験とか。だからレシピを参考にしても、他の人だと同じ味はなかなか出せないんですよ。でもだからこそ、自由に、自分らしさが出せるのかもしれませんね。
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