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五感で感じる体験を届けたい。感性に潤いをもたらす新しいドリンク作り

きっかけは、自粛期間中の感性が淀んでいく怖さ

ーー続いて、お二人がこのドリンクブランド「SHINRA」を始めるに至った経緯について伺っていければと思います。飲み物づくりはもともと経験があったんですか?

三嘴  僕は21歳の時に開業して、地元・福島の自分のバーをやっていたんです。そこで、自分でゼロからシロップを作っていました。この素材を組み合わせたらおもしろそうだなというのを日常的に実験していましたね。

ーー以前からお仕事でドリンク作りをやっていらしたんですね。

今までにないドリンクを作って、味自体に興味を持つ人を増やしたかった

三嘴  そうなんです。作ったカクテルを飲んでもらって、お客さんとのコミュニケーションが生まれるのが好きでした。今までにないドリンクを作って、味自体に興味を持つ人を増やしたかったんですよね。

ーー東京に出てきたのはどんなタイミングで?

三嘴  3~4年お店をやっていて、結婚したタイミングで東京に来ました。東京に来て1年くらいは麻布十番の和菓子屋さんを間借りして、毎週日曜日に夫婦で居酒屋みたいなことをやっていたんです。その時はお茶をメインにしたカクテルを作っていましたね。

その時に稼いだお金で、様々な講義が受けられる表参道の「自由大学」に入った時に、大智さんと出会いました。

大智  そうでしたね。僕は運営で自由大学に関わっていたんです。

三嘴  同じ福島出身で、地元もかなり近くてびっくりしました(笑)。福島出身でこんな人いるんだって。そこからは、飲み仲間としてよくクラフトビールを飲みに行くようになりました。

同じ福島出身で、地元もかなり近くてびっくりした

ーーお二人の出会いは東京だったんですね。大智さんの経歴についても聞かせていただけますか?

大智  僕はもともと食や農業、環境に興味があって、新卒ではサラダをメインに扱う中食業界の会社で働いたり青山のファーマーズマーケットをお手伝いしたりしていました。

ドリンク系に興味を持ったのは、クラフトビールとの出会いがきっかけです。ビールはどちらかというと好きではなかったのですが、「PUNK IPA」っていうクラフトビールを飲んだ時に「あれ、めちゃくちゃおいしい。なんじゃこりゃ」みたいな(笑)。

ーーおいしいクラフトビールを飲んだ時の衝撃ってすごいですよね(笑)。

大智  そうそう(笑)。それでいろいろなクラフトビールを飲み始めたんです。果物をたくさんいれたスムージーみたいなのもあるし、チョコブラウニーを液体にしたみたいなドロッとしたアルコール10%の黒ビールもあって、こんなに多様な世界があるんだ!と思って。

実はお酒は弱いんですけど、弱いがゆえに渾身の1杯が飲みたいと思ってこだわって選ぶようになりました。20箇所以上のブリュワリーを見学したり、ビール天国のオレゴン州ポートランドに2回行ったりもしましたね(笑)。

三嘴  大智さんはクラフトビール好きが嵩じて、ブリュワリーを立ち上げようとしていたんですもんね。

大智  そうなんですよ。NPO法人グリーンズで働きながら、2019年に千葉県いすみ市でブリュワリーを立ち上げる準備をしていたんです。

ーーもういっそ自分で醸造所を作っちゃおうと(笑)。行動力がすごい。

大智  飲み手として「おいしい」「おいしくない」「もっとこうした方がいいのに」と一方的に評価し続ける立場でいることが、不健全に感じたんですよね。だったら作り手側に回って、本当においしいと思うビールを作ってみんなに喜んでもらいたいと思ったんです。

でも、残念ながら新型コロナウイルスの影響で、計画を一旦ストップする判断をしました。

新型コロナウイルスの影響で、計画を一旦ストップする判断をしました

ーー苦渋の決断ですね……。SHINRAが生まれたのはこの新型コロナウイルスの自粛期間がきっかけだったんだとか?

大智  そうですね。もともと自粛期間に入る前から、ビール好きの仲間とホップのドリンクを趣味で作ったり、仲間が開催するイベントで三嘴さんと一緒にドリンクを担当したりしていたんです。ドリンクへの反応もよかったし、それぞれやっていることをドリンクブランドとして包括して一緒に活動できたらいいよねという話はその頃からしていました。

それ以降、新型コロナウイルスの流行で生活ががらっと変わり、自粛期間での僕らの実体験がもとになって本格的にブランドを立ち上げることにしたんです。

ーーその実体験というのは?

三嘴  自粛期間中は家の中でひたすらパソコンに向き合い続けて、自分の体で獲得する情報が圧倒的に少なくなっていく感覚があったんです。その中で、自分でシロップ作って味見していると「生きている感」というか、ちゃんと五感で感じていることを実感したんですよね。

ドリンクを通して一人一人が五感を使って楽しむきっかけを作れたら、こういうコロナ禍においても自分らしく生きられるんじゃないかなって。大智さんともそんな会話をしていました。

ドリンクを通して一人一人が五感を使って楽しむきっかけを作れたら

大智  僕も当時全く同じ状況だったんです。触るのはプラスチックのキーボードばかりだし、聞こえる音の種類も少ないし、触れる世界が単一でモノクロになっていく感じがして、感覚が淀んでいく怖さを覚えました。

その時にふと「ビール以外にホップを使ったノンアルコールのドリンクってないな」と思って、自分で作り始めたんです。家の鍋でホップを煮たり混ぜたりして、いざ飲んでみたら想像以上においしいものができた。

それに加えて、ふわっと広がる香りや味わい、グラスの冷たさ、唇に触れる感触、炭酸がパチパチと弾ける音一つ一つに、感覚が呼び起こされたんですよね。コロナ禍だからこそ、この五感で感じる体験を多くの人にしてほしいなと思って。同じ思いを持っていた三嘴さんともう一名のメンバーとともにドリンクブランド『SHINRA』を立ち上げることにしました。

ーーだから、「感性に潤いを。」というコンセプトなんですね。

大智  そうですね。自分で作って飲むことで五感が呼び起こされて、感受性が豊かになるような体験を届けたいという願いを込めて、ブラントコピーを付けました。

ーーその願いを実現させるために大切にしていること、心掛けていることはありますか?

大智  解釈の拡張や可能性を広げるというところを大事にしていますね。ドリンク作りにしても、料理に使われるものだったタイムをドリンクに入れてみたり、アルコールドリンクでしか使われてなかったホップをノンアルコールドリンクで使ってみたりして、素材の使い方の領域を越境していくということを心掛けています。

三嘴  あと、日常の中で見たり味わったりする中で、「これってなんだろう」って思う瞬間に、感覚は働くと思うんですよね。だから、受け取り方に余白があることも大事だと思っています。「慈雨」もジャンルとしては「クラフトコーラ」と名乗っていますが、コーラの味もするけど、レモネードっぽさもある。「これって何が入っているんだろう」って五感を使って探ってもえたらなって。

大智  SHINRAのInstagramでも、商品に関係のない影や光の写真を結構載せているんですよ。ぼんやりと曖昧でよくわからない、でも美しい。見る人によって捉え方が変わるような写真を載せることで、考えるきっかけになったらいいなと思っています。

ぼんやりと曖昧でよくわからない、でも美しい

ーーなるほど。ドリンク以外にも、そういった感性に潤いを与えるような体験をつくっているんですね。

大智  そうですね。ドリンクを軸にしつつ、そういった体験設計はしていきたいなと思っていて、今は音楽のプレイリストを作ってSpotifyで無料公開しています。

そういえば、そのプレイリストも音の輪郭が曖昧な曲を結構選んでいるかも……。ドリンクも写真も音楽も、複雑さや曖昧さを大事にしているのはたぶん、それらに触れた人の解釈の余白を作るためなんだなと今気づきました(笑)。

ーーたしかに。曖昧だからこそ、こぼれていってしまうものを掬いあげてくれるような感じがするのかもしれません。

三嘴  うれしいです。あと最近では、アート作品の販売を考えています。

ーーアート作品?

三嘴  僕らの周りに、趣味だけどすごくクオリティの高い作品を作っている人たちが結構いるんですよね。ドリンクを飲んでもらう時の空間にあったらいいなあと思う作品を、ドリンクとセットで販売したり紹介したりできたらなと、今考えています。

ーードリンクにとどまらず、空間全体をつくるという感じがおもしろいですね。

三嘴  僕らは「感性」や「五感」というのをキーワードにしているので、そういった美しい作品を生み出している人たちをリスペクトして応援したいなっていう気持ちもあるんですよね。SHINRAで販売ができれば、そのぶん彼らがまた新しい作品を作る手助けができるので。

大智  「一人一人、自分が良いと思うものを選択してほしい」という価値観も、伝えたいことの一つとしてあると思います。世間的に売れているからとか、良いと言われているからだけでなく、自分が良いと思った気持ちを大事にしてほしい。だから、僕らも僕らが良いと思ったものはピックアップしていきたいなと思います。

三嘴  たしかにそうかもしれない。「自分の生活を自分の五感で作ってほしい」という気持ちですね。僕ら自身も、SHINRAの活動をすることが自分の感性を広げることに繋がっている気がします。

自分の生活を自分の五感で作ってほしい

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