何でも自動化した社会は、人にとってウェルビーイングなのか
まずは「Aug Lab」の設立背景を教えてください。
2018年にパナソニックは創業100年を迎えました。そのタイミングで、「次の100年のロボティクスはどうあるべきか」という議論が社内で活発になったんです。
これまでロボットは、作業を自動化して生産性を高める方向を目指して開発されてきました。しかし、これから先を見据えたとき、「ロボットが何でもかんでもやってしまったら、人は何をするのか」という問題意識が浮かんできたんです。
たしかに……。すべてが自動化された社会では、逆に人がすることがなくなってつまらなそうな気がします。
大事なのは、ロボットに任せること、人がすることのバランスをとることです。人は本当にしたいことを実現することで、ウェルビーイングの状態に向かっていきます。
そこで、日常を豊かにするためにテクノロジーに何ができるのかを考え、自己拡張技術(Augmentation)を通してウェルビーイングな社会の実現に貢献していこうという目的から、「Aug Lab」がスタートしました。
ウェルビーイングの三要素のうち、これまでロボティクスが得意としてきたのは、車いすや義手といった身体的な部分のサポートでした。それに対して、精神的な部分、社会的な部分のウェルビーイングにロボティクスがどう関わっていけるかを追求することが「Aug Lab」のテーマです。
ウェルビーイングという実態のないものをロボティクスで追求するのは難しそうな気がします。そもそも、今岡さん自身はなぜこの分野に着目したのですか?
私は以前、車いすロボットの開発をしていました。しかし、実証実験で高齢者の方に乗ってもらったとき、「こんなものに乗りたくない、私は自分で歩きたい」と怒られてしまったんです。
たしかに、車いすに乗りたい人なんて本来いないですよね。誰だって、自分の足で行きたい場所に歩いていきたいと思うはずです。
この経験を機に、豊かさとは何かを改めて考えるようになり、今不自由を抱えている人に対する身体的なサポートだけではなく、人がもっといきいきと幸せに生きていくためのテクノロジーを開発したいと思いました。
「Aug Lab」ではどのような活動をしているのですか?
私たちが追求しているのは「感性拡張」です。「どうすれば人は幸せになれるのか」という問いを立てて、周囲の環境と本人の関係性に変化を与え、五感や感性の拡張を促すためにテクノロジーで何ができるかを研究しています。
ロボティクスの専門家だけでは取り組むのが難しいテーマであるため、オープンイノーベーションで社内外のアーティストやデザイナー、研究者の方と議論をしながらアイデアを出しあい、プロトタイプの製作を進めています。
プロトタイプをつくるときに私たち重視しているのが、「圧倒的当事者意識」を持つことです。つまり、漠然としたターゲット層に向けてではなく、発案者自身や特定の個人が「絶対に欲しい」と思うものをつくるのです。個人の悩みを深掘りし、徹底的に寄り添うからこそ本質を追求できますし、新しい価値を生み出すことができると考えています。