腕を上げるだけのロボットが教えてくれた、コミュニケーションの本質
感性拡張がどういうものなのか、「Aug Lab」で取り組んでいる事例とあわせて、もう少し詳しく教えてください。
現在、私が筑波大学人口知能研究室とコラボレーションして進めているのが「cocoropa(ココロパ)」という、離れている家族の想いをつなげる非言語コミュニケーションロボットです。
離れて暮らす家族が同じロボットを1台づつ持ち、一方のロボットの頭を触ると両方のロボットが連動して片腕が上がるという仕組みです。
腕が上がるだけ? シンプルな機能ですね。
例えば、息子宅でロボットの頭を朝1回触ると、両方のロボットの右腕が上がります。それを見た親が返事をするためにロボットの頭を触ると、今度は両方の左腕が上がり、両手で○の形が完成するんです。翌朝になるとリセットされ、両手が下がった状態に戻ります。
たったこれだけですが、1日1回ロボットの腕を動かしあうというやりとりを続けると、離れていても一緒にいるような共在感覚が生まれるということがわかってきました。
おもしろいですね! どのようにこのアイデアを閃いたのですか?
最初のきっかけは、社員の1人から「心配症の母親から頻繁に連絡がきて、返事するのがしんどいことがある」という悩みを聞いたことでした。
今は電話やLINE、SNSなどさまざまなコミュニケーション手段がありますが、一方で「今電話したら迷惑かも」「なんて返信をしたらいいかわからない」と相手に気を遣ってしまい、連絡することを負担に感じてしまうケースもありますよね。
でも、コミュニケーションって、もっとシンプルな形でもいいと思うんです。今までとは違う方法で、暮らしの空間で想いだけを伝えるコミュニケーションができないかと考えて辿りついたのが「cocoropa」でした。
みなさん、実際どんな使い方をしていたのですか?
我々からは機能だけを説明し、使い方は一切説明しなかったのですが、ユーザーのみなさんが自分たちなりに活用方法を生み出していたのが印象的でした。
例えば、親側が朝9時台にロボットを触り、子ども側からすぐに返事が来たら「今日は在宅だから電話してもいいな」、返事がなかったら「出社の日だな」と判断しているというケースがありました。最低限のやりとりで状況を伝えることができるため、親側は「安心できた」、子ども側は「電話のタイミングが良くなった」と話してくれました。
また、1日1回触ることを習慣にしたことで、「cocoropa」を一緒にコミュニケーションを楽しむパートナーのように感じている方もいましたね。
体験した方からはどんな反響がありましたか?
「こんなにゆるいやりとりでも気持ちは伝わるんだ」と気づきを得た方が多かったようです。あえて機能を制限したツールを使うことで、今までコミュニケーションに対して感じていたストレスがなくなり、こういったゆるいコミュニケーションをしても良いのだと思えるようになったのだと思います。
また、「cocoropa」の体験をきっかけに、普段のLINEなどでも重要度の低いやりとりを受け流せるようになった方もいましたね。
なるほど。コミュニケーションに対する意識や感性が変わったんですね。
そうです。これがまさに、感性拡張です。
感性とは何かを一言で言うと、「心が動くためのスイッチ」です。感性が豊かな人は1つのものを見たときに心が動くたくさんのスイッチを持っています。その数が多いほうが人は豊かに生きられるはず。
「Aug Lab」ではこういった感性拡張に取り組み、人がよりウェルビーイングな方向に進んでいけるようにテクノロジーで支援していくことを目指しています。