テクノロジーの余白を追求し、多くの選択肢をつくる
「cocoropa」の話を伺って、機能を盛り込んで何でもできるようにすることがテクノロジーの正解だとは限らないのかもと思いました。
難しいですよね。「Aug Lab」が重視しているキーワードに「余白」があります。
機能がありすぎると「もういらない」と思われて使ってもらえなくなる。でも、引き算しすぎると今度は「使い方がよくわからない」と避けられてしまう。その中間くらい、生活者が入り込める適度な余白があることが大事だと思います。
「なんでもできます」「これが答えです」と開発側が決めつけてしまうのではなく、使う人が自分たちなりの答えを出せるようなサポートをすることが今後はより求められていくと思いますし、ウェルビーイングにつながるのかな、と。
これまでテクノロジーの領域ではいかに効率化できるかを追求してきました。でも、今まで見えていなかった余白の部分にこそ可能性があり、テクノロジーが人の豊かさにいかに貢献できるかの答えがあるのではないでしょうか。
テクノロジーが発展すると、追いつける人と追いつけない人が出てきて分断が広まる可能性もあります。この点について、どうお考えですか?
追いつけない人をサポートするためにこそ、テクノロジーによる感性拡張、自己拡張が役に立つのではと思います。
とはいえ、一番いいのは「できても、できなくても、どちらでもいい」とみんなが思える社会です。「これができないとダメ」「これが正義」と決めつけられる社会は息苦しさがあるように思います。
例えば、今chat GPTのようなAIが加速度的に進化していますが、使ってみて便利だと思ったら使えばいいし、信用できないと思ったらやめればいい。どんなことにも選択肢がたくさんあって、どれを選んでも自由だし、できない人に対する支援もあるという社会がいいですよね。
テクノロジーでできることが増えたからこそ、自分はそれをどう使うか、あるいは使わないのかをきちんと考えることが大切になってくるのかもしれませんね。
そうですね。パナソニックには「物心一如」という理念があり、物の豊かさだけでなく心の豊かさとは何かを常に考える文化があります。
その流れもあり、「Aug Lab」では「持続的ウェルビーイング」を目指しています。エンタメのような大きな刺激はなくても、何気ない日常生活の中で感じられる心の豊かさや幸せを考え、人を主役にしたテクノロジーを追求していくことが我々の役目。
テクノロジーを活用することで今までできなかったことが可能になり、人々はやりたいことに挑戦できるようになるでしょう。その先には、今よりもっと一人ひとりが活躍できる社会があるはずです。
そんな未来を実現するために、テクノロジーは人々に気づきを与える役割を担い、人とあらゆるモノの関係性を再調整していく役割を担っていくと思います。人が主役であるとは、どういうことか。これからも考え続けていきます。
編集部のここが「#たしかに」
映画などでは、テクノロジーによって仕事が奪われたり、ロボットが世界を滅ぼしたりといったディストピアのような未来が描かれることがあります。AIの進化が急速に進む今、私たちの未来はどうなるんだろうと不安に感じる人も増えているかもしれません。
しかし、今岡さんは、「未来に希望を持てることが一番大事。人々が使ってみたい、わくわくすると思えるようなテクノロジーのあり方をこれからも考えていきたい」と話してくれました。
テクノロジーによって便利な社会になったからこそ、どう使うか、なぜ使うかを考えることが大切。そして、世の中に流れされるのではなく、自分が本当は何をしたいのかと向き合うことが、一人ひとりの豊かな暮らしにつながっていきそうです。
取材・執筆:村上佳代 撮影:桂伸也 編集:#たしかに編集部