「ゆらぎ」「こだわり」「つながり」で、人は「心の豊かさ」に気付いていく
大瀧さんは「心の豊かさ」を提供するため、どのような仕事をされているのですか?
JTは2020年、コーポレートR&D組織「D-LAB」を発足し、私はその活動全体の推進を担当しています。現在地はR&Dですが、基本的な活動は、研究と事業の両輪で進めています。
具体的には何を研究されているのでしょうか?
D-LABの前身となる活動は、2013年からスタートしていました。まずは可能性を探ろうと、特に欧米のビジネスパーソンや研究者と交流したのですが、向こうでは既に「スタートアップ」「シンギュラリティ」「VUCA」といった概念がスタンダードになりつつあった。時代を先取りする考えに触れ、私たちが最初に着手したのは、“価値”の研究です。つまり、「心の豊かさ」とは、結局のところ何なのか? 社外のさまざまな専門家、クリエーターと議論してきました。
研究活動により、「心の豊かさ」の正体は明らかになったのでしょうか?
「心の豊かさ」といっても、その捉え方は人それぞれです。あくまでJTが掲げる「心の豊かさ」を固有名詞として追求した結果ですが、いくつかの気づきを得られました。一つは、個性や主観に依存するため、構造化や一般化は現時点では不可能であること。一方で、心の豊かさに“気づくプロセス”そのものは、ある程度は構造化できるということです。
人が「心の豊かさ」に気づくときには、要因があるということですね。
はい。私たちの表現でいうならば、「ゆらぎ」「こだわり」「つながり」です。「ゆらぎ」は心身の変化、「こだわり」は意識・無意識の選択や嗜好、「つながり」は人と人との関係性。当たり前の話に聞こえるかもしれませんが、脳科学、生物学、歴史学、言語学、物理学など、各領域のアカデミアの先生方と議論した結果、この3つが交差するポイントで、人の心は動くことを発見できたわけです。
「ゆらぎ」「こだわり」「つながり」の発見は今後どのようなビジネスを生むのでしょうか?
まだ明確にはわかりません。我々は、つい「What(何をやるか)」からビジネスを考えがちです。つまり、手段が明確に決まっている。20世紀はたばこ産業、飲料産業、自動車産業というように、そうした区分けで事業を展開することが主流でした。しかし21世紀、欧米のイノベーティブな企業を見ていると、必ずしもそうではない。イギリスの作家サイモン・シネックの「WHYから始めよ」に見られるように、私たちは提供価値や直感的な部分からスタートしたいと考えています。