好きだったアクセサリー作りが自己表現に
ーー『chicchi works』のアクセサリー、一目惚れしました。個性的だけどいろんなファッションに馴染む感じがいいなあって。
ちづる(以下:ちっち) うれしい~! ありがとうございます。
ーー『chicchi works』としてアクセサリー作りを始めた経緯を教えてもらえますか?
ちっち わたしの過去のお話からすると、もともと負けず嫌いで優等生タイプだったんです。でも、中学3年生の頃にうつ病と摂食障害という病気になってしまって。病気の症状が出てしまうから、大人になってからもなるべく無理をしないように、アルバイトで生活していました。ずっと、どこか苦しさを感じながら生きていたんです。
本当は大好きな洋服に携わる仕事がしたかったけれど、地元・長崎の田舎には働きたいお店がないからできない。モヤモヤしながらいろんなバイト先を転々としていました。けんごさんと出会ったのは、そんなハタチの頃。
当時バンドマンだったけんごさんにいろんなお店に連れて行ってもらったり、ノリで一緒にバンドを始めたりして(笑)。だいぶ心が楽になったけれど、根本的には自分を表現できていないなという気持ちがあったんです。
ーーなるほど。生きづらさを抱えながらも、自己表現したいという思いが胸の中にずっとあったんですね。
ちっち そうそう。そんなある日、頑張りすぎがきっかけで久々に入院することになってしまったんです。「なんでこんな人生なんだ……」って生きることに後ろ向きになってしまっていた時に、心理学に出会ったのが大きかった。心と身体の繋がりをきちんと知って、考え方を変えるようにしたんです。一度振り切って、好きなことだけして生きてみようって思えて。
そんな時に、バイト先の先輩に「ちっちさ、そんなに服のことやりたいならアクセ作れるっちゃけん、売ったら?」って言われて。
ーーそうだったんですね。アクセサリーを作るのはもともと趣味でやっていたんですか?
ちっち アクセサリー作りは小学生の時にハマって以来、ずっと作ってたんです。ただ自分のために作ってきたものだから、「え、売っていいの?」って驚くと同時にワクワクして(笑)。けんごさんの知り合いのお店を訪ねて販売のお願いをしたら、本当に売れたんです。
その後、ハンドメイドのアプリに登録してみたら、どんどん売れるようになりました。「なんだこれ、わたしの人生でこんなことなかったぞ」って(笑)。今まで何をしてもだめだったのに、追い風が吹いてきたのを感じたんです。
けんご 僕は最初は「好きなことをやってるな~」というくらいの距離感で見守っていたんですけど、だんだん軌道に乗っていくのを間近で見ていて彼女の変化を感じました。
今までは「自己表現をしたい」という感情のベクトルをどこに向けていいかわからなかったけれど、向かうべき道が見えたのか、すごく生き生きしていくのがわかったんですよね。
ちっち 好きなことのためだから、自分の殻を破りまくって一生懸命行動したらちゃんと結果がついてきた。おかげで初めて「好きなことをやってて生きてていいんだ」と思えるようになりました。
今はこのままワクワクすることを続けていったらどうなるのか、自分の身体で実験しているような感覚なんです。
ーーアクセサリーがきっかけで道が開けたんですね。『chicchi works』はオンラインストアの他に、ポップアップストアも積極的にやっていますよね。
ちっち 憧れのアクセサリー作家の方が旅をしながら販売しているのを見て、ワクワクしたのがきっかけですね。本当に今まで地元で小さく小さく生きてきたから、どこも行ったことがなくて。全国いろんなところに、自分の仕事で行けたらどんなに楽しいだろうなって思ったんです。
けんご 一つの夢だったんだよね。僕らは長崎の端っこに住んでいて、たまに福岡に出てお買い物したり遊んだりっていうのをすごく楽しみにして生きてたから。都市部でやってるアクセサリーのポップアップストアを見て「どうしたらできるんやろうか」って二人で言ってました。
ちっち そうやって言ってたら、実際にポップアップストアができるようになったんだよね。わたし、「思ったことは現実になる」と本当に思っていて。自分がワクワクすることを続けていたら、いつの間にかやりたかったことに繋がっちゃうんです。
けんご その辺りからかな。「ちづるさん、すごいな」って思うようになった(笑)。
ちっち そんな中、2017年に雑誌『装苑』presents「アクセサリー蚤の市」に出店が決まり、初めて東京に出ました。
わたし東京のことを全然知らなかったんですけど、もう、肌に合う! なんて言うのかな。「わたし、淡水魚なのに今まで海水の中にいたんだ……」みたいな感じ。自分に合うpH(ペーハー)の街はここだったんだなって。
ーーわかりやすいですね(笑)。都会に生きづらさを感じる、という声はよく聞く気がしますが、ちっちさんは逆だった。
ちっち そうですね。長崎も好きだけど、東京の「おもろくてなんぼ」という感じがわたしには居心地よかった。田舎ではなかなか理解されなかった自分の感覚を、「どんどん出せ!」って言ってもらえるし、まとまっていない感じもすごく楽だった。
けんご いろんな価値観を持った人たちが共存しているからね。みんなそれぞれというか。東京を「冷たい街だ」という人もいれば、「ドライで割り切れるから楽」という人もいるし。どちらがいいとかじゃなくて、結果自分たちに合ってたというだけなんだと思います。
いつか絶対に東京に住もうと二人で決めて、しばらく全国を回りながらポップアップストアを続けました。
ーーその頃には、けんごさんも一緒に『chicchi works』のお仕事をやるようになっていたんですか?
けんご そうですね。ずっと別の仕事をしながら手伝ってはいたんですけど。本格的にポップアップストアをできるようになって、作る数も営業さんとのやりとりも増えたので、「俺も仕事辞めて一緒にやるわ」と、がっつり入ることにしました。
ちっち わたしのできることとできないことの差が大きすぎたんです。営業もメールの返信とかも考えすぎちゃって、作る方が疎かになってしまう。だから、そもそも苦手を克服するのをやめるために、けんごさんに入ってもらうことにしました。
ーーけんごさんとしては、一つ大きな決断だったのでは?
けんご 正直、何にも考えてなかったですね(笑)。すごい勢いを感じてたし、なんとかなるんじゃない?って思ってました。その結果、痛い目もたくさん見たんですけど(笑)。
ちっち 本当に、楽天家なんです。わたしたちはもともと真逆の性質。わたしはHSPと呼ばれる繊細な性質で、怖がりなんですよね。慎重だし、石橋叩いて渡らないタイプなんです。一方でけんごさんは、とりあえずぽーんって進んで直前になって「危ない!」って気づく。基本的にポジティブだし、どこでも楽に生きれちゃうタイプなんですよね。
そんなけんごさんと、「楽に生きていいんだ」って思えるようになったわたしが一緒に活動を始めたら、二人とも地に足がつかなくなっちゃったんです(笑)。
けんご 二人してふわふわしてたよね(笑)。気づいたらポップアップストアの予定も途切れて「え、どうやって生きていく?」という危機的状況に陥ったこともありました……。
ーーおおお……。それはどうやって乗り越えたんですか?
けんご その時は「営業がてら旅をする」というふわふわした発想から、西日本横断旅を決行しました。東京を目指して何のあてもなく車一台で出かけて。結局行く先々でイベントが決まって上手くいったんですけど(笑)。
ちっち その時に、そもそも真逆のわたしたちだから、お互いを真似することが大事なんだって学んだんです。わたしはけんごさんの真似をするけど、けんごさんも同じようにわたしの真似をして慎重になることも大事。
ネガティブもポジティブもバランスを取っていこうとやっとなれた。それは2人だったから気づけたことですね。