死にゆく過程を体験する
浦上さん、ご無沙汰しています。久しぶりにお会いできて、とてもうれしいです。
こちらこそ、思い出して下さってうれしいです。もう3年も前なんですね。
あっという間ですね……。「死の体験旅行」は当時のわたしにとってすごく大きな経験でしたし、今改めて多くの人にぜひ知ってもらいたいなと思っています。もともと、このワークショップの生まれは海外なんですよね。
はい。おそらく20~30年前に欧米各所で同時多発的に始まった、ホスピスで働くスタッフ向けの研修内容だったようです。ホスピスですから、相手はまもなく亡くなっていく患者さんたちです。
そこで自分自身が亡くなる仮想体験をすることで患者さんの気持ちを理解し、よりよい介護・看護にあてるために考案されたと聞いています。
浦上さんがこのワークショップに出会ったきっかけは何だったんですか?
10年くらい前、あるお坊さんが書いた本を読んでいたら、このワークショップが1ページ分くらい紹介されていたんです。その少し前に父親を亡くしたのですが、身内が亡くなるってこんなに悲しいものなんだと感じても、時間が経つとだんだん薄れていってしまうことが辛かった。
そこでその本に出会って、このワークショプを受けたら父親が亡くなった時の気持ちをまた取り戻せるんじゃないかと思い、受講できる場所を探し始めたんですね。でも当時は、一般向けの開催がまったくなくて。
そもそも医療従事者向けのものですもんね。
そうなんです、たまたま見つけたと思ったらやっぱり医療従事者向けで、僧侶は受けられなかったりして。2年くらい探し回ってやっとお願いできる人が見つかったので、このなごみ庵に仲間のお坊さんを集めて14人で受講したんです。
僕はようやく念願叶って受けられたので、その状況も相まって号泣しました(笑)。
ようやく、ですもんね(笑)。そこから、今度は自分がワークショップを主宰する側になろうと思ったのはなぜですか?
当初は自分でやることはあまり考えていませんでした。でも、受講後に僕や仲間のお坊さんがブログに感想を書いたら、「次はいつやるんですか?」と知らない人たちからメールにたくさん連絡が来て。
もし自分で開催するとしても僧侶向けかなと思っていたけれど、こんなに求めている人がいるんだったら、きちんと学んで一般向けにもやってみようかなと思い、2013年に始めました。
今の「死の体験旅行」で行われている内容は、浦上さんがご自身が受けたものと同じなのでしょうか?
かなり変えていますね。親しい曹洞宗のお坊さんと、今度こうしてみよう、ああしてみようと相談しながら、徐々に今の「死の体験旅行」の形にしていきました。
ワークショップ中、参加者の方には壁側を向いて座っていただきますが、それは坐禅からヒントを得ています。坐禅の2大宗派として曹洞宗と臨済宗がありますが、臨済宗は向き合うけれど、曹洞宗は壁を向くんです。一緒に考えていたのが曹洞宗のお坊さんだったのもあって、そのような形にしました。
なるほど、宗派を超えて一緒に作るというのもおもしろいですね。
そうですね。始めて1~2年間は細かいところを含めて毎回どこかしら変えていたような気がします。たぶん3年くらいでようやく落ち着いてきたんじゃないかな。でも、昨年シナリオをまたごっそり変えました。
シナリオも変わるんですね?!
医学も進歩しますからね。ワークショップの受講者の中には医療関係の方も多いんです。その中に親しい人も増えたので、シナリオを書き換えたときなんかは見てもらうこともあります。
でも、一般の人にとっては少し前の医学の世界の話を扱った方が伝わりやすいのではないかという意見をもらったので、完全に最新の医学を落とし込んでいるわけではないです。
では、わたしが受けた時とはストーリーが変わっているのかもしれないですね。
3年前だとたぶん変わっていますね。体験の中で死に至る病名はもともと明確にしていたわけではないのですが、今のストーリーだとより参加者それぞれの捉え方に差が出るんじゃないかなと思います。
実施する場所や回の年齢層によっては、少しストーリーを変えることもあります。北海道で開催するときは、5月頃に梅と桜が一緒に咲くことを知ったので差し替えたり、お寺のお檀家さん対象で年配の方向けだったらほんの少し展開を変えたり。
すごい、それぞれの場合に最適化されているんですね。よりリアルに感じそう。
そうですね。昨年は新型コロナウイルスが流行して、一時期はこのワークショップも中止していたりオンライン開催を検討したりしていたのですが、今は人数を減らしてリアルの場でやることにこだわっています。
例えば、ご自宅で受講していて家族に声を掛けられたり、インターフォンが鳴ってしまったりすると、そこで集中が途切れてしまう。ワークショップの特性上、かなり環境に左右されるので、オンラインは向かないなと。
たしかに、あの非日常感と「死にゆく感覚」は自宅では決して体験できなかったと思います。
そうですよね。あと、開催する側の僕たちにはアフターフォローを大事にしようという共通認識があるんです。
人によってはかなりダメージを負うこともあるので、終わったあとにきちんとフォローをしたり相談に乗ったりできるように、僕も今はこのなごみ庵で少人数制で行っています。