漫画を描くのは、自分が幸せを感じるから
すみませんもう一つ、これまた個人的な感想になってしまうんですけど。
はい。
矢部さんの漫画を読んでいると、部屋の隅っことかをぼんやり見つめてる時間を肯定してもらえるような気持ちになるんですよね。
それは僕がそういう風に漫画を描いているからかもしれないですね(笑)。部屋の隅っこで。
(笑)。大人になるとどうしても仕事の割合が大きくなるし、頑張らないといけないという強迫観念みたいなものが常にあるじゃないですか。でも、先ほどの話にもあったように、そこが一番のモチベーションではない人もいるわけで。
矢部さんの漫画は、頑張ることとか働くことが全てじゃないし、それでも幸せに生きていけるという希望を与えてくれる気がするんです。
僕自身、仕事のことを考えてない時間の方が多いかもしれない。マギーさんの本(*1)など読んでいる時間も多いですし、それだけしていられたらすごくいいなとは思いますよね。といっても、考えずにだらだらしてるのもちょっと限界があるし、そういうときは仕事したくなるんですけど(笑)。
*1 インタビュー前編で、矢部さんはお気に入りの作品としてマギー司郎さんの『生きてるだけでだいたいOK 』を紹介してくださった。
波はありますよね。でもそのくらいのスタンスでいられたら幸せかもしれません。もちろん、幸せとは何ぞやというのも人それぞれですが。
僕、大家さんってすごく幸せそうだなあと思ったことがあって。大家さんは、自分がこうすると幸せになるというのを知っていて、それを選び取って暮らすということをしているんですよね。その姿がすごく幸せそうに見えて。そういう憧れも持って『大家さんと僕』を描いたのかなと思います。
はああ……なるほど。聞いているだけで豊かな気持ちです。
それは、お父さんを描いたときもそういう感じがして。僕のお父さんは、自分が幸せに感じるものや好きなものをかなり早い時期に見つけて、それをすることですごく満たされる人なんですね。それは僕も同じだなと思っていて。
漫画を誰かに面白かったですって言ってもらったり、たくさん増刷がかかったりというのももちろん嬉しいなと思うんですけど、それよりもやっぱり描いてるときが楽しくて、幸せだったなみたいな方が大きいんですよね。
社会的な評価や誰かのためにというよりも、自分が好きで幸せを感じるから矢部さんは漫画を描いているんですね。
そうですね、自分のためにというのが大きいんだと思います。
自分が何に幸せを感じるかを、きちんと自分で知っておくっていうのはたしかに大事ですよね。自分で自分のご機嫌を取れて満たせる人は、傍から見ていてもすごく幸せそうだなと感じます。
そうかもしれない。そのためには、体調が悪くないとかお腹もペコペコな状態じゃないとか、自分の心身の状態を良くしておくということもすごく大事ですよね。そのベースがあることによって、自分が誰かをちゃんと好きになれたりとか。
素敵な表現で胸がギュンッてしました……。矢部さんご自身も、そこは結構心掛けられてるんですか?
いや全然です。眠くなるまで起きてるかもしれないですね。
(笑)。ちなみに、矢部さんにとって今幸せに感じることは何ですか? やっぱり本を読んだり、漫画を描いたり?
そうですね、はい。あとは誰かと喋ったりするのもやっぱりいいなと思いますけどね。
どういう方とよくお話されるんですか?
先輩とかですね。お酒飲めないので朝までお茶してたりとか。最近は、喫茶店がなかなかやっていなくて困ってるけど、そういう時間はすごいよかったな。
朝までお茶会、楽しそう……。『大家さんと僕』にも出てきた、ガサツな先輩ともお喋りしたりするんですか?
ガサツな先輩、そうですね(笑)。あのキャラクターは、芸人の先輩のほんこんさんとか板尾創路さんなどをもとにしているんですけど、お二人ともお話させてもらってますね。
それを聞くと、また漫画の見方が変わりそうです(笑)。面白いなあ。
楽しいですよね、喋るっていうのは。なんなんですかね? いっぱい喋るとすごい楽しいですよね。
ドーパミンみたいなものが出ますよね。特にコロナ禍を経て、おしゃべりの価値が増したような気がします。会って話せるだけですごくうれしい。