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競争が全てじゃない。今日も自分のために漫画を描く、矢部太郎さんの幸せとは

知り続けることもまた、一つの幸せ

矢部さんあとは前回「エンパシー」の話がありましたけど、やっぱり知らない世界の話を聞いたり触れたりするのって面白いですよね。

僕2001年頃に『電波少年』っていう番組に出させてもらっていたんですけど、3か月くらい部屋で一人でスワヒリ語を勉強して、アフリカ人の人を笑わせに行くっていうような企画があって。

むらやままだ子どもだったのでリアルアイムでは見れませんでしたが、聞いたことあります(笑)。芸人さんって大変そうだなあと……。

矢部さんその話聞くと、なんかやらされてて辛そうだなあって思うじゃないですか。実際やらされているし、やりたくないなって部分もあるんですけど、でもいざ実際にやってみると、その時間はすごく楽しいし、好きなんだなあと思ったんですよね。ほかのことしなくてよかったし。

むらやまそうだったんですね。でもたしかにそれもまた、未知との遭遇の体験ですもんね。自分の解釈次第で、面白がれたらいいですよね。

矢部さんそうですね。当時とやってること自体は違うけれど、自分の感覚としては今も同じようなことをやっているなと思います。

たしかに 矢部太郎さん

むらやま最後になりますが、矢部さんはこれから先も健やかでいるために、どう生きていきたいと考えているか、聞かせていただけますか?

矢部さんそうですね、基本的には僕、現状維持したいなと思っていて。新しいことをすごく恐れていて、ほとんどしたくないと思っているタイプの人間なんですよね。

でもその中でも新しく始めたことで変わったところもあるし、漫画を描いたことでもう一度成長しなおしたと考えると、新しいことをいろいろやってみるのもいいかなと思っている段階ですね。

むらやま今の時点で、何かやってみたいことってあるんですか?

矢部さん僕、海外に住んで漫画を描きたいなというのは、ずっと思っていたことではあるんですよね。そうすると新しく感じられることもありそうだし。

むらやま海外には新しい発見や刺激がたくさんありますもんね。『電波少年』時代に培った語学力もめちゃくちゃ活きそう……。

矢部さん今こうして暮らしてると、いろいろ知っていて、もう自分がなんだか正しいような気がしちゃってるところもあって。でもそんなはずはないから、一度離れることでそれを見つ直せるんじゃないかなと思うんです。だからそういう状況にいたいなって。

むらやま同じ環境に身を置き続けるのはラクではあるけれど、それこそ“当たり前”を疑わなくなってしまうし、それはちょっと怖いことでもありますよね。

矢部さんそうですね。もしかしたら別に海外である必要はないのかもしれないし、全く経験してきていないことを学んでみたりとか、誰かと出会ったりすることかもしれないんですけど。

そういう状況に行ってみることで、すでに知っている今の暮らしの中で生活するだけでは、気づかない気づきを得られる気がして。だから知り続けることもまた、幸せなのかなとも思いますね。

たしかに 矢部太郎さん

編集部のここが「#たしかに」

取材中、時に考え込んだり表情を歪めたりしながら、一つひとつ丁寧に言葉を選んで置くように語る矢部さんの姿がとても印象的でした。

その矢部さんの言葉には、誰も排除せず、否定せず、さまざまな価値観を持つ人を慮る気持ちが滲み出ていて、漫画が纏う空気感やそこから伝わるメッセージとぴったり合わさるようで、何度も噛みしめてしまいました。

世の中や他者の価値観に縛られず、自分の好きなことや幸せなことで自分を満たすことができる人は、きっと自分以外の誰かを大切にできる。言い換えれば、そうすることでわたしたちはようやく、誰かを思いやれるのかもしれません。

自分の正義を押し付ける前に一度、今自分をきちんと満たせているのか向き合ってみる。そして、相手のことを想像する。

そのためには、日頃からよく食べてよく寝て、好きな作品に触れて、誰かと話をして。そうした営みを続けていくことで、一人ひとりがちょっとずつ人に優しくなって、社会も少し明るくなっていくのかもしれないなと思いました。

矢部さん、考えるきっかけと素敵な時間を、本当にありがとうございました。

■Information

『ぼくのお父さん』(2021年6月)
記事内にも登場した、矢部さんが自分のお父さんを描いた漫画。ほっこり&くすっとしつつ、切なくて愛おしさいっぱいの物語をぜひチェックしてみてください。

取材・執筆:むらやまあき 編集:#たしかに編集部 撮影:番正しおり

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