独裁政治にも影響を及ぼす、広大なインターネット空間
前編では日本社会をテーマにしてきましたが、海外でもSNSによる分断は生じています。前野教授はどのように捉えていますか。
前編では、差別の“毛色”が日本と欧米で異なることを見てきました。しかしSNSの構造にも問題があることは忘れてはなりません。一つは匿名であることで、Twitterや5ちゃんねるがその例です。もう一つは、そもそもインターネットはマスメディアと違い、ユーザーが好きな領域だけにアクセスできること。“〇〇好き”に始まり、“右寄り”“左寄り”“陰謀論者”と、同じ考えの人が集まるんです。予防接種やトランプ政権の支持・反対など、アメリカでは熾烈な争いが起こり、匿名性はそれを加熱させます。プラットフォーム大国のアメリカでは、皮肉なことに、それぞれの最先端プラットフォームが、自分たちをコントロールできない分断を導いているのです。
特に政治という領域では、分断が深刻化しているように思います。
偏った考えを信じる集団がインターネット上で力を持つようになったことによって、民主主義や科学といったマクロな考え方を信じる人が減っているというデータもあります。残念ながら、利他的な精神がウェルビーイングを実現するというウェルビーイング学の考えと、世界は逆行しているようにも見えます。これは第一次世界大戦、第二次世界大戦の前と似た状況です。分断の結果、ヒトラーを盲目かつ熱烈に支持する人たちが増え、過半数に達した末に世界大戦が起こった。教育やマスメディアの力が弱体化していることも要因といえるでしょう。
現在、独裁的な国が増えていることにも通じるのでしょうか。日本のことも心配になります。
科学に対するリテラシーが下がっている点において、日本も例外ではありません。新興宗教などの別の問題にもつながっています。日本は残念ながら民主主義指数が決して高い国ではありません。民主主義指数の高い国が減少し、専制的な国が増加しているというのが、今日の国際社会です。ロシアや中国、北朝鮮、ミャンマー、アフガニスタンは最たる例ですが、それらに対抗すべく軍事を強化するアメリカや日本も、分析してみると民主化のレベルが低下しているんです。
民主主義指数とウェルビーイングには、関係性はありますか? ロールモデルになる国があれば教えてください。
民主主義指数も幸福度も高いのが、北欧諸国です。税金をたくさん投入する福祉国家を志向していますが、それは、「格差が拡大すると暴動や戦争が起こる」ことを、国民全体が理解している、リテラシーの高い国家群であるからでもあります。また、「世界一幸せな国」とも呼ばれるブータンは、最近まで王国でしたが、民主主義だけでは測りきれないヒントを教えてくれます。ニュージーランドでは幸せをコンセプトに入れた予算「ウェルビーイング・バジェット」を打ち出し、経済だけではない幸福に着眼しています。どの国も完璧とはいえないと思いますが、いずれも新しい知恵を私たちに示してくれているという点で重要です。