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【後編】科学技術は人々を幸福にす​​る?幸福学・前野教授と考える、テクノロジーとの程よい距離感

テクノロジーは、倫理と愛によって良い方向に進化する

たしかに編集部これまでの話を聞くと、科学技術そのものが矛盾を孕んでいるように思えてしまいます。今後、テクノロジーは悪い方向へと進まざるをえないのでしょうか。

前野さんテクノロジーに限らず、資本主義も含め、人類が創造した新たなイノベーションは、放っておくと悪い方へと向かう効果を必ずはらんでいます。経済成長と格差拡大の関係も同じです。そこで大切になるのは、「倫理」「俯瞰的な視点」ないしは「愛」です。SNSもAIも、さらに急激に進化するのは必至ですが、人間の側が倫理観と広い視点を持ち、さらには世界への愛をもってテクノロジーを運用すべきです。「倫理」「俯瞰的な視点」「愛」の反意語は、「自分勝手」ですからね。

たしかに編集部倫理・俯瞰的な視点・愛とは、具体的にどのようなことでしょうか。

前野さん自動車は20世紀の大きな技術革新でした。しかし最初から人々を幸せにしてきたわけではありません。交通事故は頻発し、戦争にも利用された。排気ガスも地球環境を破壊してきたわけです。しかし危険を孕んでいたからこそ、道路交通法は改正を重ね、シートベルトからEV、自動運転に至るイノベーションも生まれた。それらは人間が全体最適という大きな視点から倫理的な判断をしてきた結果です。言い換えれば、世の中を良くしたいという純粋な人類愛・世界愛とも呼ぶべきものだと私は思います。

たしかに編集部SNSの分断、AIの悪用も、長い目で見ると淘汰されていくということですね。

前野さんそうかもしれませんし、そうでないかもしれません。世の中が大きく動く時、そこに上手に乗れない人と成功する人が現れます。両者が対話を重ねることで、軌道修正がされていくということです。しかし対話の過程でヒートアップしてしまうと、必ず分断が生まれます。そして分断で勝利するのは、皮肉にも強い側であることが多い。専制的な政権は代表例です。そうした意味でいうならば、ChatGPTはオープンAIであるという点において、民主的な兆しも見られます。倫理・俯瞰的な視点・愛という観点からの希望は多分にあります。学びや対話による前進が大切となるでしょう。

たしかに編集部テクノロジーをより良い方向へ導くためにも、他者への理解は必要なのだと感じました。しかし実践するのは簡単ではないのではないですか?

前野さん行うべきコミュニケーションの方法は単純です。Aという意見を言われた時、「違う、Bだよ」と返すのではなく、AとBの違いを受け入れた上で、共存するイメージを持つことが第一歩です。つまり「なるほど。Aなんですね。わかります。一方で、Bもありますよ」というような愛のある言い方をすれば、相互理解や違いの理解が容易になります。
産業革命以来、人類はそれをしない方向に発展してきましたが、見直す時期です。周囲の人と相互理解ができれば、その人は幸せになれます。そこから、テクノロジーや社会を変えていく動きを拡大していけばいいのです。

編集部のここが「#たしかに」

世界中で起こるさまざまな事象を踏まえながら、等身大の幸せとの共通項を探る前野教授。理想論だけではないものの、だからこそ考えるべきテクノロジーへの向き合い方に、理解を深めることができました。

2本の連載にわたり深掘りした、分断とテクノロジーの関係性。インターネット時代に特有の現象だと思われがちですが、人類が歴史的に抱え、解決してきた普遍的な問題と相似形だということは、むしろ私たちに希望を与えてくれるのではないでしょうか。重要なのは、違いを受け入れること。俯瞰的な視点と愛により進化すべきは、私たち人類の側かもしれません。

 

取材・執筆:相澤優太 撮影:Hiroki Yamaguchi 編集:#たしかに編集部

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