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合理性の追求はヒトを幸せにするか 川上教授が模索する“不便だけど、いい世界”とは

教育や仕事の本質にも、不便益は関わっている

たしかに編集部先ほどあげていただいた不便益システムの例は、娯楽の領域が中心でした。“楽しい”以外にも、不便益は存在するのでしょうか。

川上さん教育にも関係すると考えています。子どもたちは凄まじい苦労をして勉強をするわけですが、実はそのプロセスにも意味がある。例えば私が子どもの頃、夜通し英単語が流れる枕のような装置がありました。この睡眠学習器で暗記した英単語と、自力で机で学習した英単語、知識としては同じかもしれません。しかし自ら学び、自分を変えていく主体性という意味では、睡眠学習器は劣りますよね。

たしかに編集部なるほど。仕事にもあてはまりそうですね。

川上さんChatGPTに文章を作らせばライターさんも楽かもしれません。しかし自分で手間をかけることで、書き手の感性や発見が生かされた文章ができます。効率性を求めるだけでは、手に入れられない価値がある。それが不便益だとイメージしていただくとよいでしょう。

たしかに編集部不便益に社会的意義があれば、かなり普及するのかもしれませんね。

川上さん少なくとも不便に益があること自体に気づくことで、価値観がプラスの方へと変わる可能性はあります。通常であれば、不便なシーンに遭遇すれば、拒否反応を示すはずです。それは思考停止なのですが、もう一歩深くまで状況を考えることで、視点は大きく変わります。不便益というものが存在するとわかっていたら、物事の見方も変わると思うんです。

たしかに編集部AIに仕事を奪われるような情報にも、怯えなくなるかもしれません。

川上さんAIを恐れて仕事を辞めようとした人が、不便益に価値を感じて思いとどまる。そして自分らしい形の価値創造ができれば、社会的損失も減るはずです。テクノロジーにより社会が合理的な方向へと進むのは、これまでの歴史を見ても明らかですが、それだけではないことに皆が気づいてほしいと思います。

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