やりたいことは決まっていないけど、独立することだけは決めていた
――本日はよろしくお願いします。過去に取材を受けた記事などを読むと、新卒入社のキーエンスを退職するきっかけはスティーブ・ジョブスの言葉だったとか?
それはかなりカッコよく書いていただいて(笑)。独立して何かをしたいというのは、入社する前から思っていたんです。私が就職活動をしていたころはいわゆるITベンチャーブームで、独立創業して証券取引所に上場するような会社にすることがこれからの働き方だ、みたいな雰囲気が世代全体に流れていました。
――そうは言っても、何か決まっていないと会社を辞めるのは難しくないですか?
それが難しくなかったんですよ。正直な話、がんばって貯金したんです(笑)。質素な生活をすれば、1年間はいけるぞっていうくらい。独立して何かビジネスをするというのがいい働き方だという、その意識はずっと変わっていなかったですね。
――退職したあと、新婚旅行を兼ねて全国を回りながら何をするのか考えていたというのは本当なんですか?
伝統産業というのは最初に決めていたんです。営業時代にカーラジオを聞いていたら、子育てしているお母さんが専門家に質問するコーナーがあって。そこで子供にどんな絵本を読ませたらいいですかと質問していたんです。その答えが、長く読み続けられている本を与えなさいと。いいものは時間が証明しているから、みたいな答えだった。
それは日本の伝統産業と同じようなものだという話を思い出して、長年に渡っていいとされているものであれば、自分が好きになれる可能性も高そうだなと思ったんです。
――でも、どうして新婚旅行を兼ねちゃったんですか?
友人から新婚旅行に予算100万円でヨーロッパに行った話を聞いていたので、じゃあそれをマーケティングの費用に使えばいいなと思って。
有名な観光地よりも、宿場町みたいなところを歩くほうが面白かったですね。ろうそくをつくっていたり、仏壇をつくっていたりして。話してみると、みなさん品質に自信はあるのに売れないと言っていましたね。
そこで旅行で出合ったものをリストアップして300アイテムくらいになったときに、何を扱うか絞り込んでいくことにしたんです。