表現する楽しさを、だんだんと失ってしまった時期
著書『13歳からのアート思考』では、ちょうど中学生の時期つまり13歳を境に、多くの人が美術に苦手意識を抱いてしまうという記述も見られました。末永さんにも、アートに対して葛藤が生まれたご経験はあったのでしょうか。
ありましたね。美術大学への進学に向けて本格的にアートを学ぶようになり、「絵画とはこうあるべき」「制作はこうすべき」といった型を叩き込まれました。幼い頃に感じていた表現する楽しさは、だんだんと失われていったように思います。
それでも美大に入ると「自己表現だ!制作だ!」と、どんどん作品はつくり続けていました。それでもどこかで課題が定めるゴールに向かって手を動かし、とにかく作品を完成させることが目的になっていましたね。
大学卒業後、公立中学校の美術の教諭になったということですが、学校教育への疑問や違和感はありましたか?
それが、なかったんです!もちろん最初は、どうしてだろう?これでいいのだろうか?と思うこともありました。でも疑問や違和感って、知らないうちに閉じ込められちゃうんですよね。気がつくと環境に慣れてしまい、それが当たり前になってしまう。
今になって振り返ると、合理的な理由のない校則いわゆる「ブラック校則」もたくさんありましたが、そこに疑問を抱くこともなくルールに従うのが当たり前という意識が強かったですね。
常識を疑う内容をふんだんに盛り込んだ、著書『13歳からのアート思考』を書き上げた現在の末永さんからは想像がつかないです!
美術の授業に関しても毎日とにかく授業をこなすのに必死で、どうしても「作品を完成させることが目的」になっていました。
もちろん生徒に作品づくりの楽しさを感じてもらえることは嬉しかったです。でも「これでいいのかな?」と、どこか納得していない自分がいて。ただ完成度の高い作品、またはユニークな作品をつくればいいのか。美術の授業の役割とは、どのようなものなのか。
まずは自分自身がもう一歩深く、アート制作を探究したい。そう思い、大学院に進学することにしました。教諭の職を離れ、非常勤講師として美術教師を続けながら、探究と実践の場を持つことにしたのです。