「先生って、ブラックなの?」。衝撃を受けた児童の言葉
松下さんが制作した絵本『せんせいって』はユーモラスな絵が印象的な一方で、給食を急いで食べる、休憩時間が取れないなど、教員の多忙な様子が描かれているのが印象的でした。なぜ、絵本を制作しようと思ったのですか?
2019年11月に、当時担任していた小学4年生の教え子にこう質問されたんです。「先生の仕事ってブラックなの?」と。
「ブラック」なんて言葉を10歳の子から聞かされるとドキっとしますね。
衝撃を受けましたね。「なんでそんな言葉、知ってるの?」ととっさに返すのが精一杯でした。あとから振り返って、私自身が「先生の仕事=ブラック」と認めているような伝え方をしてしまったかも……と後悔しました。
子どもたちも先生がいつも忙しそうなことに気がついていたのかもしれないですね。
先生の多くは児童たちが登校する前よりも早く出勤し、子どもたちが下校するまで休憩時間をほとんど取れないような状況で働いています。休み時間に子どもから「先生、遊ぼう」と誘われても、テストの丸付けがあって「ごめんね」と断ることもしばしばです。
SNSでも教員の多忙さや厳しさを伝える投稿をよく見かけます。
夢だった教員としての理想と現実の自分の状況とのギャップに悩んでいる先生も多いと思います。でも、教員の仕事は大変なことは多いですが、やりがいの大きい仕事でもある。そのことを子どもたちをはじめ、多くの人に知ってもらいたいと思いました。
それで、絵本をつくることにしたんですね。
はい。最初は学級通信で、先生としての自分の言葉で「先生の仕事は大変なこともあるけど、楽しいんだよ」ということを伝えようとしたんです。でも、上司に見せたら、「本心がですぎている」と却下されて……(笑)。それで、絵本なら子どもにも大人にもわかりやすく伝えることができるんじゃないかと思ったんです。
ご自身で出版社に企画を持ちかけたのですか?
そうです。いくつかの出版社に持ち込んだ中で、みらいパブリッシングさんが「自分で好きなイラストレーターを探していいよ」と言ってくれて。自分なりに世界観を作り込めるので面白そうだと思い、企画を進めることになりました。