接客で営業したっていいじゃないですか。
——どんな風に、お店を立て直していったんですか?
そうですね。まずやったのは「オムライスを売らない」という戦略ですね(笑)。
——えーーー!とはいえ、看板メニューなのに、なぜでしょう?
売れるから売ればいい、ってもんじゃないですよね。売っても利益が出ないなら、変えないと。まずはメディア対策として、オムライスだけの取材はお断りすることにしました。それとあんまり売れないように、お客様には大変申し訳ないのですが…少し単価をあげました。
——なるほど!…でも、値上げすることで常連のお客様からクレームはなかったのでしょうか。
正直ならなかったですね。だって、常連のお客様はほとんど、オムライスを注文しないんですよ(笑)。新規のお客様にはいろんなメニューを召し上がっていただこうと、接客スタイルも工夫しました。ほとんどのテーブルに声をかけて、コミュニケーションをとるようにして。
接客は注文を取るだけって、決まってないですよね。お客様と話して、今日の気分や好みを伺って、その上でオススメを伝えるようにして。営業の基本を接客に活かしました。
新規のお客様は、洋食屋だからなのか、なぜか「ひとり1品ずつ」と思っている方が多いんです。たしかにオムライスをひとり1つずつ食べたらそれだけでお腹いっぱいになっちゃいますよね。ですので「いろんなメニューを頼まれて、シェアしたらいかがですか?小皿だしますよ」と伝える。
——たしかに、みんなでシェアしていろいろ食べられるのは嬉しいですね!
お客様も喜んでくれるし、お店も売上(単価)が上がるから、お互いハッピーですよね(笑)。
もうひとつ、実はうちの店、カニクリームコロッケが、コロッケグランプリで5年連続「金賞」をもらっているんです。マツコ・デラックスさんの番組でも紹介してくれて、実際マツコさんも食べにきてくれたんですよ。これはいろんなお客様に食べていただけるチャンス!と考えました。
もともとカニクリームコロッケは、1人前2個で出していたのですが、単品売り、つまり1個ずつオーダーできるようにしたんです。オムライスにも追加でトッピングできるようにして。これが大当たり!
——1個だったらついでに頼んじゃいそうです(笑)
でしょう(笑)。あと一番注力したのは顧客管理ですかね。ディナーを中心にお客様の情報を記録するようにしました。この3年で4,000はあると思います。
来店日時や召し上がっていただいた料理はもちろん、常連のお客様に関しては、好みも記録することを心がけています。「前回はヒレカツを召し上がっていただいたので、今回は牛ヒレステーキをオススメします」と言うと、「覚えてくれてたの?」と喜んでいただけるし、会話も弾みます。
——データで可視化!たしかに、前回頼んだメニューを覚えてくれているのってすごく特別感がありますね。他には何かありますか?
美味しい料理にあわせて美味しいワインを愉しんでいただきたいと思い、ワインリストを一からつくり直しました。馴染みの酒屋さんに声をかけて売れ筋を出してもらい、ワインの特徴やおすすめポイントをリストに落とし込みました。
これまでお店では扱っていなかっためずらしいワインを取り寄せたり。あと常連のお客様の好みに合わせて、オーダーメイドのワインリストを用意することも。
——ワイン好きのお客様に嬉しいサービスですね。でも、負荷がかかりそうです。
そりゃあ負荷はかかります(笑)。だけどそれを面倒くさがっているようじゃ、お客様には喜んでいただけない。お客様にとことん向き合ったサービスは大切にしていますね。今回のコロナ禍でも、常連のお客様を中心に、多くの方々に支えていただき、なんとか乗り切ることができました。
↑常連のお客様の好みに合わせたオーダーメイドのワインリスト
——飲食業界はどこも大打撃と聞きますが、どのように乗り切られたのでしょうか。
しばらくは営業を自粛して、その後テイクアウトを始めました。味が落ちるのでは、と迷いもありましたが、一方で休み続けていたらまた経営が傾いてしまう、従業員もいるし、と。
はじめてみると、常連のお客様が「ホームパーティをするから」と大量に注文してくださったり、週3回も頼んでくださる近所のお客様もいたり。心配していた味も問題なく、リピートしてくださる方も多かった。
やってみて発見だったのは、「気になっていたけど、入れなかった」という新規のお客様がたくさん買いに来てくださったこと。80年の老舗で、よく言えばレトロなんですけど、やっぱり、お店に入りづらいという方もいらっしゃったみたいで。
6月に入って通常営業に戻したら、すぐ常連のお客様で予約はいっぱいに。現在、夜は連日ほぼ満席まで回復しています。テイクアウトで利用していただいたお客様の来店も増えて、有り難かったし、嬉しかったですね。