毎日に余白を
届ける

価値観発見
メディア

「死の体験旅行」主催の僧侶・浦上さんに聞く、漠然とした不安と向き合う方法

大切なのは、問題を「解きほぐす」こと

150ではもう一段階踏み込んで、もしそれでも、どうしようもなく生きていることが辛い、消えてしまいたいと思ったときは、その感情にどう折り合いをつけたら良いのでしょうか。

150やはりそういう気持ちになるのも自然なことだと、まずは認めてあげることだと思います。

自死の関係で言われているのは、実際に自死行動に至ってしまう人は、平均して4つの問題を同時に抱えているんです。さらにその4つがこんがらがって、絡み合って、ほぐせなくなって実行してしまうことが多い。

1504つの問題。

150もちろん、機械みたいに問題が4つになったら急に死んでしまうというわけじゃないです。でも、それが1つでもほぐせたり解決できたりすると、自殺率は下がっていく。

例えば、健康を損なって仕事をクビになってしまう。家のローンもあって家族仲も悪い。そうなるとにっちもさっちもいかない。でも、病気になって仕事はクビになったんだけど、多少の蓄えもあるし、家族がなんとかしようとサポートしてくれているとなると、悩みの数は変わってくる。

普段悩みを聞いていると、「絡まる」というのがよく見受けられるんですよね。別々の問題なのに一緒くたに考えてしまう人が多い。

150それはわたしも少し心当たりがあるかもしれません。

150だから結構ね、話を聞きながら問題を分けて整理していくだけで、「あ!」となる人もいるんです。それは自分だと気づけなかったりするから、信頼できる人に相談してみることは有効だと思います。

150もちろん話せる相手がいれば良いのですが、センシティブな内容であるがゆえに、知人に話すのは躊躇ってしまうケースもあるのかなと思うのですが。

150そうですよね。もちろんお寺に相談にいらしていただいてもよいですし、直接話すのが難しければ手紙という手段もあります。僕が共同代表を務めている「自死・自殺に向き合う僧侶の会」では、自死に関する手紙相談を受け付けているんです。

150手紙相談。誰でも書けるんですか?

150自死に関する悩みであれば、どなたでも送っていただけます。もちろん自死遺族の方も。10年以上続けていて、手紙は1万通を超えました。

送られた手紙には僧侶が必ず手書きでお返事を送ります。自分の手で紙にアウトプットすること自体、気持ちを落ち着かせる上でだいぶ効果があるようです。

150たしかに、誰かに読んでもらう前提で文字にすることで、おのずと頭の中が整理されるような気がします。

150そうですよね。今どき往復書簡?というのもありますが、がんじがらめになってしまった別々の問題を、解きほぐしていく手助けができたらなと思っています。

もし周りも必要としていそうな方がいらっしゃったら、教えてあげてもらえたらうれしいです。

150自分で吐き出すだけでなく、人に受け取ってもらえることが救いになりそうだなと感じました。最後になりますが、浦上さんは今後やっていきたいと考えていることはありますか?

150今は、全国の仲間が「死の体験旅行」をスタートするバックアップをしたいなと思っています。

当初は、このワークショップは自分だけでやっていこうと思っていたんですよ。この形まで作り上げた思い入れもあるし、人には渡してなるものかと(笑)。でも友人のお坊さんからも教えてほしいと熱いメッセージをもらう機会が増えてきて。

一人で全国からの依頼すべてに赴くのも難しいですし、特に遠方には自分以外に講師がいてもいいのかなと思い、「仏教死生観研究会」という会を作って伝えていくことにしたんです。今、全国に20人くらいいるのかな。

150今は「死の体験旅行」が全国で受けられるように広がっているんですね。

150はい。もうすでに各地で始めている方もいるし、これからという方もいます。そういう方たちのバックアップをしつつ、もちろん僕自身も続けていくつもりです。

普段、僧侶としてお葬式や法事をしているときは、やはりなかなか個人的で深い話ができないんですよね。でもこのワークショップだと、職業も年齢もさまざまな人とじっくり話ができるので楽しいんです。

150それは参加者側も同じかもしれません。日常生活の中で「死」をテーマに見ず知らずの人と深く語る機会はなかなかないですから。

150そうですよね。あとは、今「仏教死生観研究会」の会員さんたちに順番に1本ずつ記事を書いてもらって、ブログの更新をしていて。皆さんそれぞれいいエピソードを持っているので、それらをまとめて書籍などの形にできたらいいなと考えていますね。

150気になります。ちなみに浦上さんは何か書きたいテーマがあるんですか?

150実は、ちょうど最近「不安」というテーマで文章を書き始めていて。上手くまとまればいいなと思っています。共著とは別で、これも形にできたらいいな。

150読めるのを楽しみにしています。今何を感じるのかを確かめる意味でも「死の体験旅行」にもまた参加させてください。

150ありがとうございます、ぜひ。時期的にワークショップに足を運んでほしいというのもなかなか難しいのですが、人生の岐路にいたり、生きることに漠然とした不安を持ったりしている方はぜひ一度、体験してみてもらえたらと思います。なごみ庵や全国の寺院でお待ちしています。

編集部のここが「#たしかに」

不安が妄想に発展し、負の感情が連鎖して、絡まって、自分の首を締めているということは、問題の大小に限らず、往々にしてあるなと感じました。

特にこの先行きの見えない時代においては、自分の人生と向き合いすぎた結果、むしろ苦しくなってしまうこともあるかもしれません。

そんな時はとにかく歩く。そして、問題を一つ一つ解きほぐす。

それらに自分一人で立ち向かう必要は決してなくて、頼れる人の力を借りればいい。方法は一つではないし、味方になってくれる人も必ずいる。

その事実があるだけでも、わたし自身、こわばった心がほぐれていくような気がしました。

人生に悩んだり迷ったりしたとき、良い方向に向かう一つの手段として、今回ご紹介した「死の体験旅行」や浦上さんが携わる活動を思い出してもらえたらうれしいです。

浦上さん、ありがとうございました。また、なごみ庵にお邪魔させてください。

Infomation

倶生山 慈陽院 なごみ庵

死の体験旅行(予約サイト)

手紙相談『自死の問い・お坊さんとの往復書簡』

仏教死生観研究会ブログ

取材・執筆:むらやまあき 編集・撮影:#たしかに編集部

記事を読んで「たしかに!」っと思った方は
ぜひ下記ボタンをタップしてください

follow us
Twitter
Facebook
Instagram