トランスジェンダー女性の役を当事者が演じる必要があった
ーー主演映画『片袖の魚』ですが、東京以外での劇場の上映決定おめでとうございます!私の周りでは「今までのトランスジェンダー像が一新された」といった声が多く、改めて映画の魅力を感じます。イシヅカさんは本格的な演技に挑戦するのは今回が初めてだったのでしょうか?
映画に出演すること自体は2回目ですが、主演という大きな役をもらったのは初めてです。私はもともと若尾文子(わかおあやこ:160本以上の映画に主演した日本を代表する名女優。亡夫は建築家の黒川紀章 )さんに憧れていて、日本の古い作品からディズニー作品まで色んなジャンルの映画が大好きなんです。なので生半端な気持ちで演技をやりたくないなと、今まで積極的に作品などのオーディションを受けることはしていませんでした。
ーーそんな思いがある中で、今回は主演オーディションに参加されたんですよね?
はい。実はオーディションに参加するまで監督の名前も作品も知らなかったんですけど、『片袖の魚』の企画を知り、「どういう形であれ参加したい!」と思ったんです。日本で初めてトランスジェンダー女性の役をトランスジェンダー女性が演じるという試みにも共感し、自分自身にも関係のあることなので、「少しでもこの作品と関われたらいいな……」という気持ちで応募しました。
ーー当事者としてトランスジェンダーの女性を演じることについてはどう思いましたか?
ひとつ個人として伝えるとすると、私は必ずしもトランスジェンダー役はトランスジェンダー当事者が演じるべきだと思っていないんです。ただ、今までトランスジェンダー役をシスジェンダー(※生まれたときに割り当てられた性別と性同一性が一致し、それに従って生きる人のこと)の人が演じることが多く、実像とは違うステレオタイプが出来てしまっていて更新されていないと感じていました。
ーーたしかに、映画などで見るトランスジェンダーの方って、例えばドラァグ・クイーン(※男性が女性の姿で行うパフォーマンスの一種)だったり、安易な印象が蔓延しているように思います。そういう生き方の人は一部であって、全員が全員そうじゃないですよね。
私は今回当事者としてオーディションで選ばれたので、それなりの覚悟で演技に取り組もうと思いました。一方、懸念していたのは自分と役柄のひかりが同一に捉えられ、ドキュメンタリーのように扱われることで。ひかりは自分と仕事も考え方も全然違う別の人間なので、その違いを演技に落とし込みきれたのか、観客からどう見られるのかも少し怖かったです。
ーー映画が公開された後、感じていた不安は変化しましたか?
SNSなどで作品の反応を見ていると、「ひかり」と「イシヅカユウ」は別物として見てもらえていると思います。トランスジェンダーの方からも好評で、とても嬉しいです。
今回、私がトランスジェンダー女性を演じることで、日本の映画業界自体の価値観も変わればいいなと思いましたし、ちゃんとしたリアルな像がひとつでもあれば、今後トランスジェンダー役を受け持った人が演技プランを考える時に、参考にもなりますよね。そのために当事者が当事者を演じることは、今必要なことだと思いました。今回この映画で演じることができて本当に良かったです。