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20年前のこと、これからのこと。池袋新文芸坐_花俟良王さん

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 毎週土曜日にオールナイト上映を行っている。昼間の上映を引き続き上映するのではなく、毎回テーマを決めて一晩で3~4本の映画を一気に上映するのだ。当然テーマは多岐にわたる。俳優・監督・アニメ・ホラー・特撮・シリーズ一挙上映・タイアップ……、分かりやすく括った方が伝播しやすいのだが、たまには個人的な想いを強く込める時もある。

 一番極端だったのは2019年の4月、新生活が始まるタイミングの企画で「新生活応援企画 浮世の垢を一夜で落とす“強制善人化ナイト”」という番組を組んだ。ふざけたタイトルだが、このくらいやらないと貴重な週末を犠牲にしようという人たちに申し訳ない。上映作品は『ブリグズビー・ベア』『500ページの夢の束』『パディントン2』『5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~』という近作4本。ご覧になった方はお分かりだろうが、この4本は、衝撃的でも挑発的でも不謹慎でも賛否両論でもない、いわゆる「いい話」なのだ。様々な環境の主人公たちの未来が様々な障害により脅かされるが、いずれも他者の善意と己の努力によって希望を見出していく。映画としての完成度も高く、お茶の間だろうが全校集会だろうがどこに出しても恥ずかしくない映画たちだ。しかし動員は芳しい数字ではなかった。推し俳優の特集でもなければ歴史に名を刻むシネフィル必修映画特集でもない、単純に「いい話」を並べてもお客さんが来なければそれは編成者の自己満足に過ぎない。

 そう、自己満足。確かにそうだ。今だから書くが、この企画に関しては私の欲求に準じている。真正面から、恥ずかしげもなく「優しさ」「寛容さ」を提示した。普段感じていることに対するささやかなメッセージとも言えるし、皮肉を込めた心のガス抜きだったのかもしれない。

梅原浩二

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