「自粛生活でやることリスト」の最後には、「あくまで仮です」のひとことを
名越 僕、自粛期間で辛かったことが何もなかったから、まずそれを教えてほしい。聞かないとわからへんのよ。
社領 え、本当ですか? 外出自粛の要請が出てから、今まで対面でやっていたミーティングがオンラインになったり、そもそも出社すらなかったりと、生活がガラッと変わりました。そんな中で、テレワークが性に合っていて快適な人もいれば、自由に出かけられない、友達と遊べないとかで気持ちが落ち込んだ人もいて。そもそも、どうしてそれで気持ちが暗くなってしまうんでしょうか?
名越 まず、孤食に慣れてないっていうのがひとつのポイントなのかな。
社領 ひとりでご飯を食べること?
名越 うん。僕みたいに普段一人でご飯を食べてる人は、食事を通して人からエネルギーをもらうサイクルの中に生きてない。だから孤食でも平気なのよ。でももしかしたら、みんなでご飯を食べる晩餐形式に慣れてる人はしんどいのかもね。
社領 そうかもしれないです。私は夫と一緒に過ごしてたから平常心を保っていられたけど、一人だったら本当に寂しかっただろうなって思います。
名越 自分のすることに没入感がないのも寂しい原因かもしれない。この際、音楽とか物語に没入する集中力を養ったらどうやろ。
社領 集中力を養うためには、どんなことに気を付けるのがいいですか?
名越 普段から、「よし楽しむぞ」と覚悟したうえで、聞く、読む、見るという習慣をつけることですね。
社領 なるほど。その集中力で得られる没入感って、音楽をきいてライブ会場にいる気持ちになったりするような感覚ですか?
名越 そう。たとえば僕、いま漫画の『キングダム』を読んでるんやけど、何万という武将と一緒にいる気分になれて全然寂しくないんですよ! コンサートの映像を見ても、僕はバンド活動をしているから、本当に会場にいるほどの高揚感があるんです。
社領 そこまで入り込めたら確かに全く寂しくなさそう! ただ、没頭以前に「無気力」になっている人も多いと思います。休みに入ったらこの本を読もうとか、これを作ろうとか思っていたものが、新型コロナの影響で時間が作れるようになっても、「なにがやりたかったんだっけ」と思い出せなくなったり、気分がのらなくて着手できなくなったりする人もいたと聞いていて。これはどうしてなんでしょうか?
名越 それね、直球で言うと、「無理」なんですよ。
社領 えっ!? 無理なんですか!?
名越 うん。だって計画した時と自粛期間の今とでは状況が違うでしょう。だから、そもそもその予定をこなそうとするのは無理なんです。予定は未定の、頻繁に変わる状況の中で僕たちは生きているから。
社領 なるほど。状況が変われば気分も変わりますもんね。当然なのに、頭からすっぽり抜けてました。
名越 緊急事態宣言が発令されたとき、真面目な人は「自粛生活でやることリスト」みたいなものを作ったかもしれないけど、そういうのには「あくまで仮です」って最後のほうに入れとかなあかんね。
社領 「仮です」と。
名越 うん。たとえばリストに10項目があって、全部にやる気が起こらない。なら、もう思い切って「いい夢を見る」でも「温水プールに行く」でも、なんでもいいから今一番気が向くことで11項目めを作ってしまえばいいんです。
社領 毎日自分のやりたいことを考える生活は気持ちも明るくなりそう……!
名越 そうやって考えるのが、いい頭のエクササイズにもなる。しかも、その日一日で自分が一番やる気の起こることが、能力も発揮できるし、効率も良くなるから一番パフォーマンスがいいんですよ。