髪を切ることをもっと気軽に。小さな港町の小さな美容室
ーー最近、オープン1周年を迎えられたと伺いました。おめでとうございます!
ありがとうございます! 夫婦出版社・アタシ社のミネシンゴくんと一緒に昨年3月にオープンし、丸1年が経ちました。
▲オープン初日。アタシ社の編集者であり花暮美容室のオーナーのミネシンゴさん(左)と店主の菅沼さん(右)
ーー出版社がプロデュースする美容室というと、かなり珍しいですよね。
そうですよね。ミネくんと出会ったのは3年ほど前。長年勤めた原宿の美容室を辞めて、逗子に移った時に出会いました。
彼は元美容師で、『髪とアタシ』という美容師のための文藝誌を作っていたんです。それを見て気になり、ミネくんに連絡をしてご飯に行きました。
ーーなんと! 意外な出会い方でした。
それがきっかけで僕がミネ夫婦の髪を切るようになり、まだ出会って間もない中で「一緒に美容室をやりませんか?」と誘ってもらったんです。
そこから逗子の美容室で働きつつ、空いている時間にミネくんと物件を探しました。他の地域も見たんだけど、最終的にはここ三浦半島・三崎で彼らが運営している「本と屯」の2階を使うことに決めました。「本と屯」はメディアでも何度か取り上げられていて、すでに人が集まる土壌ができていたので。
▲「本と屯」の1階部分は、およそ5000冊もの本を自由に読める蔵書室になっている。ドリンクの提供もあり。
ーー「旅するついでに、髪を切る。」というコンセプトがとても新鮮でいいなと思いました。
髪を切ることって、もっと気軽で生活の一部にあるものでいいと思っているんですよね。だから、三崎の町までまぐろを食べに来たついでに、髪を切るくらいの気持ちで美容室に来てほしいなって。
ただ1年やってみて、今はどちらが最初の目的でもいいと思うようになりました。「髪を切るついでに、旅をする」でもいい。どちらにせよ、ついでくらいでちょうどいいんです。三崎での時間を楽しむ中に、髪を切る時間を1時間でもつくってもらえたらうれしいですね。
ーー美容室に行く前は「気合を入れておしゃれしないと」という気持ちがありますが、そのくらい肩肘張らずに行けたらいいだろうなあ……。
そうですよね。お客様一人ひとりの緊張感を少しでも和ませたいなという思いがあります。だから、内観はリラックスできるおうちのようなイメージで、席は一つのみ。僕一人で最初から最後まで担当する形にしています。
ーーかなり贅沢な空間ですね。
各時間「一組限定」なので、家族連れやカップル、お友達同士で来ていただくのはOKです。ご家族5人でいらっしゃって、お母さんのカラーの放置時間にお子さんの髪を切ることもありました。
その間、他の家族は本を読んだり絵を描いたりして自由に過ごしている。これは、他の美容室にはない特徴かなと思いますね。
ーーたしかに。他にもお客さんがいると気を遣いますし、通常の美容室だと難しいですよね。この完全プライベート空間だからこそできる。
ご夫婦でいらっしゃる方たちの中には、お互いのヘアスタイルについて一緒にコンサルティングする方もいますよ。旦那さんのカットの時に「ここはもうちょっと軽めでいいんじゃない?」って奥さんが意見を言ったりね(笑)。そういう光景がいいなあって。
ーー一素敵ですね。きれいになった姿を家族や好きな人にすぐに見せられるのもいい。
そうそう。これはもうひとつこだわりなんですけど、実は奥に全身が映る姿見を置いていて、最後にケープを取ってお客様自身が全身のコーディネートを確認したり、整えたりできるようにしているんです。
美容室では顔から上の話がほとんどだけど、髪型もファッションひとつだし全身のバランスが大事だと思うので。